週末(二)

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週末(二)

 ルーナは少し遠慮がちに、様子を伺うように言った。 「マムは、そんなにディートリヒおじさんが好きなの?」 「えっ?」  不意の言葉にフォークを取り落としたのは、私ではなくイーサンだった。 「ダディが言ってたの。マムはもともとダディと同じ雌雄同体だったけど、ディートリヒおじさんが男性だったから、おじさんと結婚するために女性になったんだ......って」 ―イーサン......!―  私は軽くイーサンを睨み、改めてルーナを見て言った。 「ええ。私は、ディートリヒが好きよ。でも女性になったのは、それだけの理由じゃないわ。」  私は、まっすぐにルーナを見つめた。 「私は、自分のお腹で子どもを育ててみたくなったの。医者として、小児科医として体験しておきたかったの。......最初は自然分娩はできなかったけど」  イーサンは、小さい咳払いをすると、おもむろに言った。 「私も貴重な体験をさせてもらったよ。妊娠中の母体がどういう状況にあるのか、エネルギー体がどうなっているのか、観察できた。自然分娩は、アーシーには負担が大きすぎるから、サイキック-オペレーションで取り出したけどね、一人目は。二人目は自然分娩してもらって、状況を把握させてもらった。」 「ふぅ......ん」 ルーナは運ばれてきたプディングをスプーンで掬いながら言った。 「何故、ダディじゃ無かったの?ダディのことは好きじゃなかったの?」  私は、言葉に詰まった。ルーナの目が、イーサンまで真剣に見つめていた。 「管理局への子どもの申請は、未分化の場合は一組につき一度きりなの。イーサンは、私に女性になることは求めてなかったし.....」 「この星では、それが普通だしね。」  ラウディスでは一組の両親が複数の子どもを持つことはあまり推奨していない。可能な限り、多様な遺伝子の組み合わせのサンプルが欲しいからだ。私とディートリヒは、どちらもラウディアンでは無いので、この制限からは外れる。 「でも、マムの精子もまだ、管理局にあるんでしょ?」 「あるわよ。何故?」 「マムの精子とダディの卵子の組み合わせなら、管理局にも許可されるでしょ?」 「それは......」  イーサンが、エスプレッソを吹き出しそうになった。 「私は、アーシーのようにお腹に子どもを養う勇気は無いよ」  いつもより苦い顔をしてイーサンが言った。   「私の卵子では、アーシーの子宮が拒絶反応を起こすしね」 「育てるのは、私と同じにカプセルでいいじゃない。私もギルモア達のように兄弟が欲しいの。マムがダディを嫌いじゃなかったら、私に兄弟をちょうだい」 「ルーナ......」  私は言葉に詰まった。ルーナの気持ちはわかる。この星では、互いに同じ両親を持つ兄弟はごく少ない。その仲の良い様子が羨ましく見えるのかもしれない。 「まぁ......考えておくよ。アーシーは私の大事なパートナーだからね」   イーサンが私の返答を抑えて、ルーナに応えた。 ―ビジネスのね......―と言おうとする私の口をイーサンのサイキックエネルギーが押さえた。何なのよ......とテレパシーで怒ると、 ―子どもの前だぞ。―と返ってきた。  まぁ配慮すべきことではあるので、私はそのまま黙った。 「相談て、そのことかい?」  イーサンは私を横目に見ながら、ルーナに言った。ルーナは二つ目のプディングをつつきながら、口ごもった。 「違う。......進路のことだけど.....」  ルーナはイーサンの能力を強く引いている。第四エリアの最終課程の終了も間近だ。その後は、各自、両親の合意を得て専門分野に進むのだ。   「私は、ヒーリング-スキルが高いから、医療系を、薦められてるけど......」  ルーナは上目遣いで私達を交互に見ながら言った。私もイーサンも医療系だ。まぁそれは普通の進路だが......。  「私は、先生になりたいの。生徒を導く先生の姿が憧れなの。」  悪くはない、と私は思った。医者はエネルギーの消耗も肉体にかかる負荷も大きい。ルーナのエネルギーはそれには少々繊細すぎる感がある。  私は、イーサンを見た。 「いいじゃないか。......医者とは違う大変さはあるが。」  イーサンはあっさりと肯定した。  にっこりと笑って私の方を見た。 「アーシーも反対しないだろう?」 「ええ」  そこまでは同意できた。しかし......だ。 「医者の後継者が欲しくなったら、管理局に申請に行くさ」 「本当に?」  私は、唖然としたが、ルーナの嬉しそうな顔に何も言えなかった。  あまつさえ、宿舎に帰ろうとすると二人がかりで引き留められた。 「アーシー、せっかくルーナが帰ってきているんだ。明日はオフなんだから、宿舎に帰ることはない」  イーサンはルーナに目配せしながら言った。 「ここは、君の家でもあるんだよ。アーシー」      
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