七人の聖者もしくは叛逆者(一)

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七人の聖者もしくは叛逆者(一)

「さて、まずこの星の歴史から説明しよう」  Dr.クレイン=イーサンは、私をカウチに座らせて、言った。 「この星が、生まれたのは約二億年前だ。生命体が発生してから一億年くらいかな。......様々な生命体が生まれ、幾つかの文明が栄えては滅びた。......これは、どの星にもあてはまる話だ。......現在のラウディアンの文明が起こったのは、約三千年前。外惑星から飛来した人々によってもたらされた」  イーサンによれば、現ラウディスの文明の元になったのは、アンドロメディアの星間戦争を逃れてきた人々だという。 「アンドロメディアは、非常に卓越した文明と能力を持っていた。ラウディスの人々は、彼らを神と崇めた」  アンドロメディアは、ラウディスを非常に機械文明の発達した星に成長させた。が、機械文明が極度に発達した結果、他の星系からの侵略を受けるようになり、また他の星への侵略を行うようになった。 「この星間戦争は、一千年もの間続き、多くの生命が失なわれ、また文明も失なわれた。最終的にラウディスは辛くも生き延びたが、深刻な痛手を負った。......早い話が人口が激減したんだ。」  戦えば、人は死ぬ。生命体には死が付き物だ。 「だが、神と呼ばれたアンドロメディアの末裔達は、人口の確保を図るために、遺伝子操作を行い、人口の減少を食い止めようとした。それが......」  人間、つまりHumanの雌雄同体化だった。アンドロメディア達は、ラウディアン達を教化し遺伝子操作を進めて、雌雄同体を優性遺伝にまで変化させた。 「自然的なものでは無かったの?」 「違う」  イーサンは言った。 「フェリー星のHuman《人間》は、過酷な自然条件の中でも一定の人口を保てるよう、自然的に雌雄同体化した。だから、環境が安定すれば、男女どちらかを選ぶという流れはごく自然なものだ。だが、ラウディスは違う。戦争によって人口が減っても、それを回復できるよう雌雄同体化させたんだ。つまり。星間戦争で多くの『男性』が死んでも、後世に種を残せるように......」 「それで?」  私は、イーサンの淹れてくれた珈琲を啜りながら訊いた。イーサンはホログラフィーを開き、幾つかの画像を見せてくれた。 「星間戦争がもたらした、もうひとつの深刻な被害は、物理的な損失だった。資源を湯水のように使い、最新鋭の兵器を開発しても、被害を受けて壊れれば使い物にならない。その損失を最低限に抑えるため、能力開発が行われた」 「抑える?」 「そう、優れた遠隔透視(クレヤボヤンス)の能力者が多数いれば、レーダーはいらない。念動力(サイコキネシス)の能力があれば、兵器は飛ばせる。それを増幅させるシステムも開発された」 「そんなことのために、開発したの?」 「どんな場合でも、新しい技術開発の最初の契機は軍事目的だよ」  イーサンは口を歪め、皮肉めいた口調で言った。 「星々が争いを続けることに疲れて、停戦し、惑星連合を作った。アンドロメディアやマゼラニアンの指導のもと、惑星評議会が作られ、相互監視を行うようになり、均衡がもたらされた」 「それは知っているわ。フェリー星が超新星爆発を起こす危険な状態に入った時、惑星評議会が、様々な星にフェリー星人の受け入れを要請した」  私は画像を見ながら、あの日々のことを思い出した。十代の初め、惑星評議会のマゼラニアンが来て、私達がラウディスに移住することに決まったと告げた。出発までは一週間、Human以外の生命体は、ラウディスには連れていけないと言われて、泣いた。ペットはケンタウリに移住する友人に託した。 「そして、君はラウディスに来た。亡命者として......ラウディスは、雌雄同体の生命体、能力を持つ星の住民は歓迎するからね。しかもフェリー星人は、『オリジナル』。ナチュラルでラウディアンが憧れる資質を有していた......多数のフェリーナがラウディスに移住し、ラウディアンと子孫を作った......僕と君のようにね」 「話が脱線してるわよ」  イーサンは小さく苦笑いをして続けた。 「星間戦争が沈静化したあと、星々の優劣を決めるのは、アンドロメディアやマゼラニアンのような高度な『精神文明』を築くことだった。ラウディスは、より『清潔』で高度な能力を持った『優秀な』Humanであることを目指した..... つまりアンドロメディアのような......ね」 「アンドロメディアは、半霊体と聞いたわ。肉体は無いも同じって......」  アンドロメダの主星の多くは、薄いガスの塊のような星で、物理的な星の地表は脆く、Humanは、殆ど質量を持たない姿に進化したという。 「ラウディアンは肉体を持ったうえで、アンドロメディアのような存在になることを目指した。その中心になったのが、アンドロメディアの血を引く『神の子』達だ。ラウディアンは、保存した彼らの遺伝子を自分の精子や卵子に移植し、神の末裔達を作り続けた」  イーサンは長い長い系統図を映し出した。 「あなたも神の末裔なわけね。イーサン」 「そういうことになるね。.....この流れかな」  イーサンが指したのは、インディゴのエネルギーのアンドロメディアの流れだった。 「見てわかるように最初のアンドロメディアには、それぞれ役割があり、それぞれ異なる能力があった。政府はそれを実験的にミックスするケースと、クリアな流れを維持するケースと二通りの流れを作った」 「あなたは?」 「比較的、クリアな方だな。僕自身は、いわゆるミックスからクリアに戻った......と言うべきかな。途中で、他の要素も少し入った。遺伝的疾患を避けるためにね」  私は小さく頷いた。 「ミックスしていくと、究極はどうなるか、わかるかい?」  イーサンは複雑な流れの図を示した。 「わからないわ」 「レインボー-クリアになる。或いはクリスタル。だが、そこまでの究極にはなかなか到らない」 「でしょうね。......それで?」 「『七人の聖者』もしくは叛逆者達は、このレインボー-クリアに到った数少ないラウディアンの『究極』だった。......だが、それゆえに抹消された」 「なぜ?」  イーサンは深く溜め息をついた。 「『究極』は『無』なんだよ。アーシー、人間には『欲』がある。権力を求めるのも『欲』だし、政府を動かしたいと思うのも『欲』だ。彼らは、その全ての『欲』を否定した」 「だから、抹消したの?」  正直、意味がわからなかった。 「それに、『究極』は求めるものだ。実現してしまっては困るんだ」 「なぜ?」 「目標値が無くなるだろう?」  イーサンの説明によれば、彼らは、―政府を否定した―もしくは―体制を非難する言動や行動を行い、市民を扇動した―ため、政府によって捕縛され、断罪された......という。 「実際、彼らのコミューンは、反政府運動の火付け役になった。大規模な暴動も幾つも起きた。利益の公平な分配を求めて......ね」  結果として政府は、ラウディアンの優遇性を見せるため、他の星からの移住を認め差別化を明確にすることで、市民の信頼を取り戻した。  また、人工受精を推奨し、スタディ-エリアを作って、子ども達を親から切り離すことで、国家への忠誠心を植え付けた。『政府の子ども』達が育ての親である政府を裏切ることはない。他に頼るべき存在は無いのだから.....。 「でも、それがミーナのような子ども達を作る理由にはならないわ」  イーサンは首を捻る私の隣に座り、髪を撫でながら、耳許で囁いた。 「この星の闇はもっと深いんだよ......」
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