プロローグ

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プロローグ

 白く薄い雲が、ゆっくりと地表を流れていく。薄いソフトパープルのその星は、とても美しく平和だった。ゆったりとした大河が流れ、樹木が繁り、豊かな実りがあった。  多種多様な生物が共存していたその星は寿命を終え、今は隕石の欠片の散らばるダークマターの姿に戻ってしまった。  懐かしい、忘れることの出来ない故郷。  私は、あれから幾つもの星に転生を重ねたけれど、あれほど美しく優しい星を、私は知らない......。 ―――――――――――――   「ドクター、Dr.シノン、急患です!」  ホログラフィーの向こうで、アンビュランス-シンボルが点滅する。  私は、淡い夢から引き戻され、カンファレンス-ルームに向かう。  私の名は、アーシェル-シノン。医者だ。  専門はサイキック-ヒーリング......主に子供達を対象としたエネルギーフィールドの再生医療を担当している。  いわゆる『小児科』の医者だ。  カンファレンス-ルームに入ると、既に数人のスタッフがスタンバイしていた。  いずれも細胞再生、DNA蘇生の専門医、肉体からアストラルボディまで、それぞれのエネルギーフィールドによって担当する治癒スキルが異なる。  リーダーは、肉体からアストラル体まで全てのレベルでの治癒(ヒーリング)の出来るスペシャリスト、Dr.クレイン。 「患者は?」    診察台ごと、年若い患者が運ばれてきた。かなりの出血。皮膚を裂く幾つもの裂傷.....人工的な刃物での損傷ではない。  青ざめた唇が苦痛に呻く。両の目は見開かれ、忙しなく眼球が動いていた。  アシスタントが、ホログラフィー-カルテを映し出す。 「年齢は12歳。性別は未分化。ランクCのサイコキネシスです。」 「症状は?」 「全身の裂傷。と意識混濁。...セルフコントロールの失敗による自傷...かと。」 「薬物反応は?」 「γf2の反応が出てます......」 「γf2?こんな子どもに ?!」  誰かが叫んだ。γf2は、松果体の活性化とエネルギーフィールドを拡大させるための薬剤だが、効果が強すぎるため、若年層の自己コントロールの出来ない子供の使用は禁止されていたはずだ。 「親が隠れて投与していたらしいです。......違法を承知で。」 「何て事を......」  私は、言葉を失った。呆然とする私やスタッフにDr. クレインの抑揚の少ない冷静な指示が飛ぶ。 「養育批難は後だ。肉体の損傷の回復を急げ。同時に、エーテル体、コーザル体のメンテナンス開始。ダメージは大きいが、修復は可能だ。......Dr. シノン、ハート-センターのケアを頼む。」 「承知」  私は、患者の胸の中央に手をかざす。周辺の空間の粒子を変換して、生命維持と心身安定に必要な周波数のエネルギーを作り、患者のハートセンターから流し込む。   ........... 「Complete ! 」  患者の状態を映し出すホログラフィーボディの全身がグリーンのラインに安定したところで、Dr.クレインの終了合図が出た。  ドクター達は多少の消耗はしていたが、まだかなりの余力があった。 「まぁ、軽症な方だ。肉体の損傷も筋肉組織の上部だけで済んでる」  Dr.クレインは、穏やかになった患者の寝顔を見ながら言った。そして、ふっ......と顔を上げて私を見た。 「Dr.シノン、後を頼む。」  そう、私の仕事は、年若い患者達のメンタル-ヒーリングでもある。ショック状態から、日常生活を行える平静な心理状態を取り戻すまでケアをするのが役割だ。 「それにしても......」  隣に立っていたスタッフが呟く。 「増えてますね。違法な能力開発......」  皆、一様に顔を曇らせ、頷いた。 「市民は、本当の『危険』を知らないからな。この患者は、青少年監理局に保護される......保護者の再選定が済むまで、な」  Dr.クレインは、相変わらずの冷やかな口調で言い、踵を返した。カンファレンス-ルームの扉が音もなく開き、その背中を私達の視界から遮った。一瞬、振り向いたその顔に微かな憂いを覗かせて......。      
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