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人を避けるようになったのは、いつからだろう。  小学生の頃、授業参観日があった。保護者が誰も来ないのは私だけで更に追い打ちをかけられたのが授業の内容だった。  主題は家族の大切さについて。考えを訊くために、先生がクラスメイトを順番に指していく。私の家庭事情を知っているくせに先生は私を飛ばさずに指名した。  だから正直に答えた。 「いないものの大切さなんてわかりません」と。 いない、には二通りあって、初めからいなかったか途中からいなくなったか。 家族は昔いたのかもしれない。でもその姿は記憶に残っていないのだから、初めからいなかったという扱いになる。 存在していないものをどうやって大切にしろと、愛せというのだろうか。  誰も私の答えなどに期待はしていなかった。この一言以外に答えは持ち合わせているはずがない。教室の空気が一気に冷めたのを肌で感じた。  この授業は辱めを受けたのと同じことだ。そして私を慰める人も、私のために抗議する人もいなかった。  暴れてやろうか、誰かに噛み付いてやろうか、教室にいる人間を睨み付けながらそんなことを独りで考えていたのを覚えている。  その日から、人間嫌いが開花した。   人間嫌いが根を生やして取り返しのつかなくなった数年後、何かを学ぶ意思もやる気もないのに高校へ進学した。  同年代の子、大勢に囲まれてもやはり私は孤独だった。  それに耐えかねて入学三日で登校拒否をした。同居している七夏おばさんは呆れてしばらく口をきいてもらえなかった。 元々、七夏おばさんが無理矢理受験させた高校だ。中と底辺の間の偏差値で簡単に入れる所。義務教育である中学を卒業したら家から一歩も出ない生活を送るつもりだった。しかし、それは絶対に許さないと七夏おばさんに目くじらを立てられてしぶしぶ受験をした。  合格しても、結局不登校という有様だ。  誰とも話さない日が続いた。仕方がない、他の人にあるものが私にはその半分、いやそれ以下もないのだから。  そんな言い訳を心の中に押し込めて今日も堕落して生きていく。目的地のない、ふわふわと漂うクラゲのように、透明で脆く、味気なく。  ところがその生活は、見知らぬ人達が私の家に突然やって来たことで一変する。それも、六人。 「俺達を家族だと思ってくれ」  その内の一人、謎の男は言った。  彼らの性別や年齢はバラバラで、性格もまるっきり違う。  律儀な人、穏やかである人、堅物な人、気性が荒い人、何も語らない人。  なぜ彼らは私の家にやって来たのか。  謎の男が提案した「人物当てゲーム」を解き明かしていくことで、私は、この先の目的地を見出すことができるのだろうか。
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