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私が気付くと私達の車は前の車に玉突き衝突していた。運転席と助手席のエアバッグが開いている。
後ろを振り返ると白い車が私の車のトランクに突っ込んでいた。直ぐ後ろには変形したトラックの大きなグリルが見える。
そして次の瞬間、『ボン!』という激しい音と共に白い車のボンネットから火の手が上がった。
その先の室内には二人の男女が見えるが意識が無さそうだ。
私は直ぐに助手席の百合に声を掛けた。彼女はお腹を押さえている様に見える。でも私はその点に配慮する余裕が無かった。
「百合! 早く車の外へ!」
彼女は頷くと助手席のドアを開けて直ぐに外に飛び出してくれた。
そして私は足元から『緊急ハンマー』を取り出して車を降りると、直ぐに後ろの車の横に走った。
しかし既に火の手は車の前席部分を包み込み、そこに居た二人の男女も火に包まれている。
私は急いで運転席のドアを開けようとしたが車体が大きく変形していてドアはびくともしない。仕方なく『緊急ハンマー』で運転席の窓を割った。炎が割れた窓から噴き出して私の右手を焼いたがそんな心配はしていられない。でも前席の二人はもう絶命している様に見える。
その時、私の耳に赤ちゃんの泣き声が聞こえた。後席を見るとチャイルドシートの上で赤ちゃんが泣いている。火は後席の赤ちゃんの足下に迫っていた。
私は後席の窓をハンマーで割ると、カッターでシートベルトを切って、赤ちゃんを車の外に抱え出した。私が前席を見ると、そこの二人は既に黒焦げになってしまっている。
赤ちゃんは火傷が痛いのだろう、大声て泣いていた。
私は直ぐに赤ちゃんが日本人でないのに気付いた。彼女は綺麗な金髪と蒼い瞳を持っていた。
そして私は彼女の服のポケットに入っている少し焦げた紙を見つけ取り出してみた。それはエコー撮影をされた胎児の小さな『写真』で黒いペンで『Lisa』と書かれている。
私がその『写真』をポケットに戻し、赤ちゃんを抱いて自分の車の横に戻ると、百合の姿が見えない。
助手席側に周り込むと、路肩に百合が蹲っていた。
何と彼女の足下には血の海が広がっている。
「浩二さん・・私達の赤ちゃんが・・死んじゃう・・」
百合がそう声を絞り出した。
呆然とする私の耳に誰かが呼んだ救急車のサイレンが聴こえて来た。
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