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両親への挨拶
大学四年のある日、私は凛太郎を最寄の駅まで迎えに行っていた。
駅の改札を抜けて私に手を振った彼は、服装こそスーツで決めていたが、不安そうな表情を浮かべている。
先月、凛太郎は技術者として日本一の重工メーカに内定を獲得していて、その後、私は彼からプロポーズを受けた。
そして今日は凛太郎が私の両親に挨拶する為に、私の自宅を訪問しようとしていた。
「大丈夫よ。そんなに緊張しなくても・・」
並んで歩きながら私は彼に微笑んだ。でも彼は未だ不安そうに見える。
「いや・・理紗のご両親とは中学の時に会っただけだし・・。施設で育った僕を受けいれてくれるかな・・?」
両親が居ないことで多くの不利な経験をして来た彼にとってこの不安はもっともだったが、私は全く心配していなかった。だって、そのことはもう両親に伝えてあって、そんな環境でも一流企業の内定を得た凛太郎を逆に褒めてくれていたのだから。
自宅に到着して玄関を開けると、母が笑顔で私達を迎えてくれた。
「ようこそ、凛太郎さん。さあ上がって」
母に導かれて私達はリビングに通された。そこにはやはり笑顔の父がソファに座っている。
「こんにちは、大変ご無沙汰しています」
リビングの入口で凛太郎は大きく頭を下げた。
「やあ、久しぶりだね。待っていたよ。さあそこに」
父が凛太郎を手招きして向かいのソファーに座らせた。私もその横に腰掛ける。
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