45人が本棚に入れています
本棚に追加
「「ごちそうさまでした」」
あれだけあったそうめんの山も二人がかりで挑めば案外大したことはなかった。
真衣奈が空いた食器を片付けるのを見計らって俺は胸ポケットに入れておいたタバコに火をつけた。決して明るいとはいえない蛍光灯に反射しながら紫煙がゆらゆらと漂っていた。
「先輩またそんなもの吸ってる。タバコばかり吸ってたら背が伸びなくなるよ」
「バーカ、俺の成長期はとっくに終わってるよ。そんなことより煙たかったら外に出てるけど」
「いいよ。ここは先輩の部屋なんだし、それにわたしもこれ片付けたら帰るから。あんまり遅くなったらお父さんになに言われるかわかんないしね」
カチャカチャと食器を洗っているため、真衣奈がどんな顔をしているかまではわからなかった。けど、声が弾んでいるみところをみるときっと笑ってるのかもしれない。
「祐介さんなにか言ってたか?」
「別に悪い話じゃないよ。それどころか『お前はいつになったら翔吾のところへ嫁にいくんだ?』ってうるさくって」
「あの人まだそんなこと言ってるのか」
「うん。あ、そうだ、お父さんがたまには俺のところにも顔出せって言ってた」
「どうせろくな話じゃないんだろうけど、そう言うならたまには会いにいくかな」
タバコをもみ消すとどうやら真衣奈のほうも片付け終わったようで、持参したエプロンを外しながら帰り支度を始めていた。
「それじゃ帰るね」
「家まで送ろうか? 祐介さんにも会いたいし」
「ううん、いい。今日メット持ってきてないし、この時間のお父さんお酒飲んでるから捕まると長いよ?」
「だったらまた今度だな」
そう言って真衣奈とは部屋の前で別れた。
カンカンカン、と階段を下りる音を聞きながら部屋のドアを閉める。さっきまで賑やかだった部屋の中はうら寂しい空気が漂っていて、たった六畳一間しかないこの部屋が妙に広く感じた。
「彼女か……そんなのいたら楽しいんだろうな」
しかし二秒後に馬鹿な考えだと思い、二本目のタバコに火をつけてそれ以上考えるのをやめた。
最初のコメントを投稿しよう!