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その日、同じ大学の友人でもある中村大樹から電話がかかってきたのは、夕方ごろのことだった。
「もしもし、翔吾? お前、今時間あるか!?」
通話ボタンを押した瞬間に聞こえたのはそんな大樹の慌てたような声だった。
「どうした、単位でも危ないのか?」
冗談めかして言ってやると、案外それは的を射ていたようで「お前……それを言うなよ……」と、電話の向こうで肩を落とす姿が見えた。
「それよりもなにか用か? ずいぶんと慌ててるみたいだけど」
「そうだ! 今は単位どころじゃないんだよ! あ、単位も大事だけどよ、それよりも大事なことがあるんだ」
携帯のスピーカーが割れんばかりに声を荒げる大樹に、とりあえず落ち着けと促す。
単位以上に大事なものってなんだ? 大樹がこれほどまでに焦っていることを考えてみても、よほどのことじゃないというのだけはわかった。
「それで大事なことってなんだ?」
言葉に真剣味を込めてそう聞き返した俺の言葉に大樹はこう答えた。
「今から合コンなんだけど、人数足りないからお前に電話した」
プツッ。ツー、ツー。
あまりのバカバカしさに思わず通話を切ってしまった。もちろんその二秒後には携帯が鳴って、
「お前なに切ってんだよ!? こっちは必死なんだぞ! それどころじゃないんだぞ!」
と、再び声を荒げていた。少しでも心配した俺がバカだった。
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