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すっかり短くなったタバコをもみ消すと、ようやく大樹がやってきた。
「悪い、待たせたな翔吾」
「遅いぞ。なにしてたんだ」
俺が携帯灰皿に吸殻を放り込みながら文句を言うと「いや~、ほんっと悪い! 直前まで服選んでたら遅れた」などと、さして悪びれた様子もなく言った。
……ったく。いつものことだとわかってるけど、せめて耳の垢分くらいは申し訳ないと思ってくれてもいいと思う。
「んで、勝算は?」
「もちろんバッチリだ」
俺が嫌味交じりに聞くとずいぶんと気合が入っているらしい大樹は、ニヤッと笑みを浮かべながら右手でサムズアップ。それが気合の表れなのか、Tシャツにプリントされた『NO FUTURE』の文字がなんとなく彼の未来を暗示しているように見えた。
大樹に連れられてやってきたのは、駅前のテナント群が入居しているビルにある居酒屋だった。
ここも変わったな。俺が高校生だったころ、よくここに買い物に来ていた。けど、卒業してからはめっきり立ち寄ることも少なくなっていた。久しぶりに訪れた場所はあの時に比べるとすっかり様変わりしていて、俺の記憶の中と同じ姿で今でも残っている店といえば、大学生の寂しい懐にも優しい大手チェーンのイタリアンレストラン一つっきりだった。
居酒屋の中に入ると、すでに席には五人ほどの男女の姿があった。男二人のほうは大学で見かけたことがあるだけで、直接話をしたことはなかった。女の方は言うまでもない。
「おーい連れてきたぜ。あれ? そっちは三人か?」
大樹が女性陣に声をかける。どうやら幹事は大樹のようだ。
「ううん、こっちも四人だよ。もう一人の子は後で来るって」
「そっか。じゃあさっそく始めますか。せーの」
「「「かんぱーい!!」」」
大樹の号令で計七つのジョッキがぶつかった。キンキンに冷えたジョッキから滴る水滴がはねた。
そのままの勢いで喉に流し込むと、じんわりとした苦味と爽快感が体中を駆け抜けた。
「いい飲みっぷりだな」
横で同じようにビールを飲んでいた大樹が話しかけてくる。
「ま、せっかくだからな。俺なりに楽しむさ」
「せいぜいくたばんなよ」
それだけを言い残すと、本命の女の子でも見つけたのかさっそく話かけていた。見れば大樹だけじゃなく、ほかの奴らも気に入った女の子にアタックをしかけていた。
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