45人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、紗季さん」
「なにー?」
「紗季さんって先輩のことどう思ってるの?」
「どう思ってるってー?」
「なんていうか、言葉通りの意味で」
「そうだなー、わたしにとってハカセは大事な友達かな。一緒にいてなんだか落ち着くっていうか、楽しい気分になるっていうかそんな感じ。……なんかこんなふうにいうと照れくさいね」
えへへ、と紗季さんは照れくさそうに笑った。
紗季さんの言った『友達』という響きの中に込められた感情。電話の向こうからでも紗季さんがわたしに嘘をついていることぐらいわかった。もともと紗季さんは嘘をつくのがとても下手だった。そのくせ誰かのことを気にしすぎて遠慮する。きっと紗季さんはわたしの話を聞いてる間も先輩のことを想っていたはずだ。それなのに自分の気持ちにふたをしてわたしのことばかり考えて……。
「ずるいなぁ……紗季さんは」
電話を切ったあとでわたしは泣いていた。紗季さんの優しさに対してじゃない。紗季さんの気持ちに気づいていたはずなのに、それに気づかないようにしていたことに腹がたったからだ。
だから紗季さんが先輩のことを好きだってわかったときは、嬉しくもあったけど、同時に焦りも感じていた。きっと先輩は紗季さんに惹かれている。そして紗季さんも。
だから偶然とはいえ、先輩が紗季さんとキスをしていたのを見てしまったときだって、本当は嫌だったし、なにもかも投げ出して見ないふりをしたかった。なのにわたしは心のどこかで納得していた。最初からこうあるべきだったのだって。
最初のコメントを投稿しよう!