45人が本棚に入れています
本棚に追加
穏やかな時間だと思う。
けれど、あとひと月たらずで古い一年は過ぎ去り新しい一年が始まる。そうなれば俺たちは高校三年生になり、将来を決めるための準備を始めないといけない。もうこんな風に何も考えずに、星なんて眺めることなんて出来なくなるだろう。
『いいか翔吾。人生なんてもんはな、一瞬で消える流れ星みたいなもんなんだ。今が楽しいって思っても、長い人生で見ればほんの一瞬しかない。だけどな、その楽しいひと時が過ぎても、その日々を忘れなきゃいつだって人生は楽しかったって思える。だから今のうち楽しめるだけ楽しんでおけ。それがいい大人になる秘訣だ』
どうしてか親父に言われた一言が蘇った。言われたときはどういうことかわからなかったけど、今なら親父がどうしてそんなことを言ったのかなんとなくわかる気がする。
きっと紗季も気づいてるのだろう。このたまらなく愛しい一瞬がもう手に入らないことを。
根拠なんてない。
なのに俺は言いたかった。
「また来よう」
紗季が「え?」という顔をしていた。
「なんだよその顔」
「いや……ハカセがそんなこと言うとは思ってなかったからびっくりしちゃって」
「驚いたか? 実は俺もこんなのはガラじゃないって思う」
「だよね」
お互いに頷き合いながら笑う。
「でもハカセがそう言ってくれて嬉しい」
紗季の瞳の中に新星が生まれたように瞬く光があった。
最初のコメントを投稿しよう!