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言い訳のようなことを思いながら、バイクを停めてある駐輪場に向かう。側にポツンと立っている頼りない外灯に明かりを求めてなのか、それとも本能なのか、たくさんの羽虫が群がっていた。
その下にスポットライトのように照らされて、バイクが一台停まっていた。
カワサキ、エストレヤ。俺の自慢の愛車で、今はもうこの世にいない親父がかつて乗っていたバイクだった。
バイクのセルモーターを回すと、キュルキュルという音のあとに、バラララとエンジンのかかる音がした。
バイクスタンドを上げてアクセルをひねる。そうするだけで一陣の風になることが出来た。
母親曰く、俺の親父はそれはそれは子供っぽい人だったそうだ。俺もそれはなんとなくわかる気がする。
俺が小さい頃、親父とゲームをやっていて親父が負けると「翔吾! もう一度勝負だ!」と言っては、自分が勝つまでゲームをやらされた記憶がある。負けず嫌いなのだ。
そのくせ、ゲームはものすごく下手くそで、負けがこんでくるとゲームの電源を落とし「俺が本気を出さないでやってるのに調子乗るな!」と怒られた。あまりにも可愛そうなのでわざと負けると「俺が本気でやってるのにどうしてお前は本気を出さない!?」と怒られた。理不尽この上ない。
なのに忘れた頃になると「翔吾! この間のリベンジだ!」と勝負をけしかけてきてまた負ける。その繰り返しだった。
そんな親父の口癖は『俺はな、いつかこの世界に名を轟かせる人間になってやるんだ』なんて、今どき戦隊ものの悪役だって言わなそうなことを平然と言ってのける。正直、子供の頃はそれを喜んだものだったが、さすがにこの歳で自分の父親がそんな馬鹿げたことを言ってるなんて知ったらすぐに病院にかつぎ込むか、市役所に行って戸籍を別々にしてもらったほうがいいかもしれない。
それでも俺はそんな大人なのに子供っぽくて、父親っていうよりは歳の離れた友人のような親父が好きだった。
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