第2章:マゼッタ

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あれは粉雪が舞う冬の寒い朝だった。 人買い商人の馬車が私を迎えに来たのは 「ごめんね…お母さんを許して」 そう言って母親は私を商人に引き渡した。 それが最後に見た母親の記憶だ。 女だと知られればどんな目に合うか 分からない。 母親のせめてもの親心から私は髪を短く切り 男の成りをして売られたのだった。 以来私は帝国の奴隷として鉱山で マゼッタを掘り起こす労働を課せられた。 朝日が昇ると1日の労働が始まり 日が沈むまでマゼッタを荷車に積んで 山の(ふもと)まで運ばされる。 手や足は擦り切れて血が(にじ)んだ。 夜になると奴隷達は各々眠りにつく。 狭い洞窟の中で寝る者もいれば 外で寝る者もいた。 (わず)かな食糧しか与えらず 空腹に耐えらなかった私は 毎晩鉱山に面した海を眺めながら 一夜を過ごした。
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