第2章:マゼッタ

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アニスはとても純粋で優しい男の子だった。 私達はすぐに仲良くなれたし 私は彼の事が大好きだった。 でも彼は私が理想郷の話をすると 決まってこう言うのだ。 「理想郷なんて何処(どこ)にもないよ…」 そう(つぶや)く彼はいつも寂しそうだった。 鉱山に来てから初めて冬を迎える頃 アニスは私に秘密の計画を持ち掛けてきた。 「鉱山に雪が積もる時期になると 毎年凍死する奴隷達が出始める。 不衛生な労働環境から 恐ろしい伝染病だって蔓延する。 まして君は女の子だ。 気付かれたら(ひど)い仕打ちを受けるに違いない。 僕と一緒に鉱山から逃げよう」 アニスは採掘したマゼッタを盗み 隠し持っていた。 それを鉱山警備をしていた軍人に 賄賂(わいろ)として差し出す事で 私達は鉱山から逃げ出す事が出来た。 軍人も皆、生活に困窮(こんきゅう)していた。 オルガナ帝国のお金による競争社会は 格差を生み、国の資産の90%を約5%の 富裕層が独占していた。 この国の経済は崩壊している。 アニスは私にそう教えてくれた。
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