第一章:リクルーター / 採用する人

9/9
前へ
/46ページ
次へ
9  「今、帰ったぞ」  その声を聞きつけた秀之進が、ぼろ長屋の奥から駆け出てきた。  「父上ーーーっ! 大変でございます!」  「なんとした? 騒がしいぞ、秀之進。何事だ? 留守中、何事も無かったか?」  「有りました! とんでもないことが有りました! 家の裏にこのような物が!」  秀之進が父に向かって差し出した掌には、純白の粉が乗っていた。重右衛門は「うむ」と唸り、次いで人差し指をペロリと舐めたかと思うと、その粉を指先に取って口に持っていった。・・・甘い。それも極上の上白糖だ。  父の大胆な行動を目の当たりにした秀之進が、目を丸くして尋ねる。  「これは何でございますか、父上?」  「砂糖だ、秀之進。お前も舐めてみるとよい」  秀之進は恐る恐る舌を出して、掌の上の白い粉を舐めてみた。すると、おっかなびっくりしていた目に、みるみる喜びの様なものが溢れ出す。  「わぁ、甘いでございます! 父上! 甘いでございます!」  「して、これが家の裏に?」  「はい、父上。壺に入って、こーーーんなに沢山!」  ツボの大きさを伝えようと腕を大きく振り上げると、ちょうど万歳のような格好になった。その弾みで掌の砂糖がこぼれて、秀之進の頭の上に降りかかる。  「うわっ、ケホッケホッ・・・」  その様子を見た重右衛門は顔をほころばせた。  「そうかそうか。そんなにか」
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加