ミラリス

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三時間後、読了。気づけば夕方になっていました。 お代を払って帰路へ着きます。小説にあったような夕陽を浴びていると、まだ心身ともにあの世界にあるような心地です。脳の神経回路がふわふわしていて、足元がおぼつかないです。 帰り道は、一人感想会の会場です。 あの一節が、あのセリフが、情景とともに脳内に再び蘇ります。何度か再び本を取り出そうとしていたのですが、それは野暮なもの。きちんとお別れした物語に対して、寂しさからすぐ会いに戻ってくるというのは、情緒もへったくれもありません。少し時期を置いて、再び会いに戻ってくるのが真の楽しみ方というものです。 ミラリスちゃんの最後の笑顔が浮かんできて、嬉しい気持ちになってきます。今日が誕生日だという人は、何人いるのでしょう。明日は? 明後日は? そういえば昨日はどうだったのでしょう。 きっとその人たちは、ミラリスちゃんのように、その一日中ずっと幸せな気分でいるのでしょう。主役になった気分で、鼻歌を歌い、美味しいケーキを食べて、残業したり……でもそのあとに嬉しい何かが待っていたり。 そんな幸せな姿を見るだけで、私は自然と嬉しくなるのです。誕生日を迎えた人は、堂々と誇っていいのです。だって、世界でこれ以上ないくらいの、記念日なのですから。 ──ということで、私もいいですよね? ピタリと止まった場所には、美味しいケーキ屋。チーズケーキやロールケーキも良いのですが、特にイチゴタルトは絶品だそうで、一度は食べてみたかったのです。 そりゃあ、私だって大人ですし、誕生日を迎えたって、流石にもうはしゃぐような元気もないですし、むしろ誰かの誕生日を祝う方が嬉しい、と思えるくらい心が年老いていますが……今日は私の誕生日です。大義名分があるのです。それを使わずしていつ使いますか。今でしょう。 ふんふんふん、と鼻歌を歌い店内へ。いつものように好きな本を読んだり、読後の独特な気分を味わったり、気まぐれで好きなものを買って食べたり。 こんな、いつもの日常のような誕生日も、ありですね。 ミラリスちゃんのように嬉々として、私はケーキを注文するのでした。 「すみません。ここからここまでのケーキ、全部3個ずつください。スプーンは一つで」 ──でも、ちょっとだけ調子に乗ってみたりして。
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