ミラリス

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ミラリス

今日は新しい本を買ってきました。 馴れ初めはと言いますと、一昨日ほどに届いた毎日新聞の広告と運命的な出会いを果たしたのです。普段新聞の広告など見ることがなかったのですが、その日は「そういや今日はどんな広告載ってんのかな」と、突如として新聞ファンのような興味が湧いてきたので、偶然覗いていたのです。 タイトルは、”ミラリス”。中堅作家のゆり乃るかさんが書いた、記念すべき第十作目の作品。ボードゲームのタイトルにこんなのがありますが、中身は異世界で暮らす主人公、ミラリスちゃんたちの、穏やかな日常を描いた小説のようです。 この広告を見たとき、直感したのです。 この小説、読んだら絶対好きになるやつだ、と。天啓でした。 それからの行動は我ながら素早いものでした。近所の本屋に駆け込み、ミラリスとオレンジページの3月号とスキップ・ビートの最新巻を買って(残り二冊は本屋の誘惑に負けた結果です)、嵐のように過ぎ去っていき、いつもの読書スペースであり隠れ家的名店、”あじさいおばさんの喫茶店”へと、こうしてやってきたのです。 注文したカフェラテを手に持ち、喫茶店のテーブルに一人、ちょこんと腰掛けて、鞄からミラリスを取り出します。表紙は、儚げな顔をした水色の髪の少女が、万華鏡のような模様をした蝶を手に持ち、その蝶で左眼を隠しているという、ミステリアスな雰囲気を醸し出すものです。ひょっとすればこの子が主人公でしょうか。ならば、これから私はこの表紙の子です。 空想の中で髪を水色に染め、腕に包帯をつけてから、ページをめくります。……の前に、忘れていました。読書用の眼鏡です。眼鏡をきちんと掛けて、では改めて。 早速読んでみましょう。 『この物語は、私自身の体験したあれやこれやについて、一切合切を綴ったものである。よって私の私情が途中に入ることをお許し願いたい。 私の見知った人物たちがこの物語に登場し、奇想天外な活躍を繰り広げていくのだが、彼らの動きは私が動かしたものではない。全て彼らの意志であり、操り人形についているような糸は存在しない。 小汚い冗談や、下世話な話題まで途中に出てくるが、それは私の創作ではない。決して私の創作ではない。 私は彼らのように汚い言葉は使わない。決して勘違いしないようにしてほしい。繰り返し言うが、これは……』
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