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思考が止まりました。より正確にいうならば、完全に物語に浸りました。現実と想像の逆転が起こったのです。
この状態は、絶対に逃してはいけません。この状態こそ、物語を楽しむために必要なものです。
何も考えられない、聞こえない──次のページをめくる度に、期待がこもっていくのを感じます。
『……騙されていたわけだった。巧みな手を使うものだ。私はまんまと引っかかって、意表を突かれてしまったわけだ。
「……ふふふ、ははっ……」
少し遅れて、笑いがこみ上げてきた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、滑稽で、そして嬉しくて。涙も少し溢れそうだった。
「本当に、馬鹿なんじゃないの?」
棘のある言葉も、今はその意味を成さなかった。彼らは私の顔を見つめて、優しく微笑んでいる。自分が抱いていた劣等感なんて、どうでも良いと思えるくらい、深い安心感がそこにあった。
「……ありがとう。みんな」
ダイが駆け寄ってきた。その手には、プレゼント用に包まれた小さな箱。
「誕生日おめでとう。ミラ」
視界が涙で覆われて、私は蹲ってしまった。』
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