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「ねぇ、これ見て!」
そう言って、封筒から出てきた大量の写真を眺めているのは2年間付き合っている彼女の千花だ。千花とは高校生の頃から付き合っている。
「これ、修学旅行だね。海斗めっちゃ楽しそうじゃん」
「千花こそ、はしゃぎすぎて帰ってから熱出したりしてたよね」
「そうそう、楽しかったなー」
3年前の高校2年生の頃を思い出しながら2人で写真を1枚2枚とめくるように見た。
「あ、朔也…」
ある写真で手が止まる。その写真は千花、海斗ともう1人、朔也が3人で写っている写真だった。
高校3年生。卒業式当日。
家はそれぞれ遠かったけれど、いつも同じ駅で3人揃って学校に行っていた。その日も駅のホームでおはようと挨拶を交し、昨日見たドラマがどうだったとか卒業して離れるのが寂しいだとかそんな話をしていた。
「ねえ、2人とも聞いてる?」
「ん?ごめん、聞いてなかった」
千花は日常からよくしゃべっていて俺ら2人はほとんど聞く専門だった。
「それでね……」
そうしゃべり続けていた彼女が目の前でふらっと揺れた。後ろを通った人の大きなカバンが彼女の背中を押したみたいだった。揺れた彼女は倒れるように線路に落ちた。俺はただ慌てて何をしたらいいのか分からなくて、ただただ頭だけが真っ白になった。そんな俺の横から朔也が飛び出して線路に降りた。
「海斗、上げて」
朔也の声に戻され、朔也が持ち上げた千花を俺が引っ張りあげた。電車の音が鳴り、朔也は慌てて上がろうとした。俺はそれを助けようと手を出したが、手を滑らせて朔也は線路に取り残されてしまった。止まれなかった電車が通り過ぎていく。キーっという音を立てながら。
「さくやー、さくやー」
俺達は叫び続けた。もう二度と、返事は帰ってくることは無かった。
その日、俺達は卒業式を迎え、ただ涙が枯れるまで泣き続けた。
「私たちが生きていられてるのは朔也がいてくれたからだよね」
涙を流しながら震えた声で彼女が言った。
「そうだね、ありがとう。朔也。」
俺はその写真を見て、そう言った。写真には水滴がぽつぽつと落ちていた。
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