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「颯斗、どうした?」 ナビゲーターシートで独り百面相する俺を訝しんだ翔琉が、とうとう声を掛けてくる。 だが俺は、自身の目的を果たすまでは決して種明かしはできない。そう思い、咄嗟に「何でもないです」と誤魔化してしまう。 それでも尚、怪訝そうな視線を執拗に向ける翔琉に紫澤が今日、俺のところへ久々に訪ねて来たことを口を滑らせ告げていた。 言った後で、俺はそれを酷く後悔する。 何故ならば、翔琉が次の信号で突如Uターンし、来た道を戻っていたからだ。 あからさまに苛立ちを見せる翔琉に、俺は慌てて弁明する。 「何もないです!紫澤先輩は、ただ、帰国の挨拶に来てくれただけですから」 「――分かってる。だがそれ以前に、隣りでくるくる表情を変える颯斗に……俺はその(、、)()になってしまったから……今夜は泊まっていきなさい」 淡々と告げたその言葉に、俺は酷く赤面し照れ隠しにこう言った。 「ホント、どこでも(さか)ってらっしゃるから翔琉の方が浮気してないか、俺の方が不あ……」 わざと拗ねた口調で告げると、赤信号で停止した翔琉に唇を濃厚に塞がれる。 青信号になったところで翔琉の唇は離れ、代わりに俺の下腹部に小さな熱が灯った。 つい先程目にしていた風景を、車窓から不貞腐れながら眺めていると、翔琉は意地悪そうにニヤリと笑みを浮かべる。 「俺が浮気していないか不安? だったら……ベッドの上でいくらでも、颯斗が俺の身体に確かめてくれて構わないから、な?」 念を押す様に語尾を強めた翔琉は、そう言って艶かしい流し目でこちらを見つめた。俺はその視線に、これから起きるであろうことを鮮明に意識してしまい、余計下腹部の前を突っ張らせてしまう。 その変化にめざとく翔琉は気が付いたのか、クスリと笑い、一言「楽しみだな」そう嬉しそうに告げたのだった。
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