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看護師の兄と住む大学付近のマンションへ来たのは、これが二度目だった。
酔った心織を部屋まで何とか送り届けた俺は、「じゃあ、ちゃんとそのまま寝ろよ」そう言うと、そのまま部屋を後にしようとする。
だがしかし、予想に反して心織は俺の手を握って離さなかった。
「おい、心織。俺、明日も一限からだからもう帰りたいんだけど」
酷く困惑しながら告げると、ニヤリと笑みを浮かべた酔っ払いがこう言った。
「お客さぁん、イイのがあるんですよぉ。今夜、一緒にコレ.......観て行きませんかぁああ?」
キャバクラのキャッチよろしく告げた心織が手にしていたのは、いわゆる大人の男女の映像作品であった。
「否、俺はそういうのは.......」
やんわり断ると、心織は遠慮しているのだと誤解し、ゴリ押しを始めた。
「いやいや颯斗クン? ハロウィンの夜に、女の子一人もお持ち帰りできない俺たちに、これからの未来はあると思うのかい? いやぁー、ないだろう。うん、ない.......ね。ああ、もう人生終わったよ」
オーバーリアクションで言いながら、途中シクシクと心織は泣き出す。
――なんて、厄介だ。
ひきつり笑いを浮かべながら俺は仕方なしに、心織の話を傾聴する。
「だから今夜はコレで、お互い慰め合おう! イイな!」
そう言って、心織は巨乳の女の子がパッケージに描かれたブルーレイをデッキへセットした。
初めからかなり濃厚シーンが流れたそれに、俺は「ふーん」と何処かそれを他人事のように眺める。
――翔琉に全身を開拓される前だったら、多分俺にもこの映像――とても刺激的に思えたんだろうな。
強弱のついた女性の裸を見ても、全く興奮しない自身の身体に、すっかり自分は翔琉にしか反応しないのだと知ってしまう。
――むしろこの男優より翔琉のアレの方が.......もっと大きくて、硬くて――そして熱い。
瞬時に情事の時に、自分の孔をグチュグチュと揺さぶる、あの昂りを思い出し俺は酷く赤面した。
それどころか、全く反応を示さなかったソコが翔琉を思い出したことで、忽ち熱を帯びる。
「!!」
しまった、と思った。
すると、ちょうど良いタイミングで携帯電話が鳴る。ディスプレイには、翔琉の名前が表示されていた。
興奮している心織には声を掛けず、俺はそっと部屋の外へ出る。
「もしもし」
声を潜め、電話口の相手に向かって俺は喋った。
「今から帰るんだが、颯斗は何処にいる?」
「俺は今、麻布の友達の家です」
「――浮気、してないだろうな?」
少しの沈黙の後、低い声色でそう翔琉は言った。
さすがに大人の映像作品を今観ているところ、とは言えなかったが、浮気はしていないので反論はする。
「そんな訳、ないでしょ! アナタの相手で大変なんデスから!」
そうは言ったが、この頃の俺は翔琉から独占欲を剥き出しにされ、とても嬉しい。
いよいよこれでは様々な意味で後戻りができないだろうと自覚するが、それも仕方がないと思っている。
だって俺が好きになった相手は、誰が何と言おうとも――あの、超人気俳優龍ヶ崎翔琉なのだから。
――仕方ないよな。だって、あんなスペシャル過ぎる恋人を持ったら、誰もが霞んで見えちまうもんな。
三十分後、翔琉の部屋で落ち合うことになった俺は、帰ることを告げるため、再度部屋の中へと入る。
すると映像は、豊満な胸の間に男優の熱雄を挟み、扱くシーンになっていた。
心織が、「コレ、かなり気持ちイイらしーよ! 堪んないって! ね、試してみたくない?」酔っ払いのままで話し掛けてくる。
「知らねーよ! そんなの! 俺、もう帰るから」
普段、女性と付き合いたいと口にはする心織だったが、ここまでの願望があったとは.......と、俺は今日何度目かの大きな溜息をついた。
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