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いいお兄さんの日
「明日って、いいお兄さんの日らしいよ」
大学のキャンパス内を移動中、親友の赤羽心織は、俺、高遠颯斗にそう言った。
「へぇー、十一月二十三日だからか。そう言えば、心織にはお兄さんがいたよな」
当然、一人っ子の俺には兄も弟もいない。その為、そのどちらも非常に羨ましい存在だ。
「うん。看護師やってる千織兄ちゃんと、IT企業で働いてる彩織兄ちゃんがね」
「え、二人もお兄さんがいたのか?」
驚く俺に、心織は「そうだよ」と特に気にする様子もなく答える。
同時に、だからこんなにも甘えん坊なのかと俺は独り納得してしまう。
「あ、颯斗! どうせ今、だから俺がこんなにも甘えん坊でワガママなんだとか思ったんでしょ?」
心の内を言い当てられ、俺は言葉に窮する。
「ま、颯斗はどこからどう見ても一人っ子だよな。基本、単独行動できるもんな」
自身の特性を言い当てられ、こちらも妙に納得してしまう。
不意に、そう言えばあの男はどうなのだろうかと、思いを廻らせる。
あの男とは、もちろん恋人である“龍ヶ崎翔琉”のことだ。
十も歳上ということもあり、間違いなく頼りがいはある。兄と言われれば兄っぽいし、弟と言われればそうとも捉えられる。
もちろん、一人っ子と言われても同じだ。
――というか、もし本当に翔琉に兄弟がいたとしたら、皆あんなに顔面偏差値高いのだろうか。
否、翔琉の一族なのだからきっと全員がそうなのだろう。
架空の兄弟たちを想像しただけで、俺はくらくらしてしまう。
思えば、翔琉の家のことは一切何も知らない。
ロシアかどこかのクォーターだということも、世間で囁かれている噂とその瞳の色から察するだけで、結局本人の口から直接聞いた訳でもない。
――ま、でも本人が話さないってことは、まずこちらからは聞いてはいけないことなのかもしれないしなあ。
そう思った俺は、それ以上深く追求することを止めてしまう。
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