いいお兄さんの日

5/5
前へ
/208ページ
次へ
いつも車に積む自転車は、今日ここへ来た時に停めておいた場所で留守番となってしまう。 どうやら今夜は、帰してもらえないようだ。 この情勢で逢えなかった時期もあり、以前に比べて一度逢うと、翔琉からの想いがとにかく強い。 強くて、つよくて…… 最近では、それも心地好い。 明らかに自分は、“龍ヶ崎翔琉”という贅沢を全身で覚えてしまった。 「――翔琉が兄なんて、やっぱり……嫌です」 すっかり見慣れた夜道を運転する翔琉に、俺は告げた。 チラリと運転席の翔琉がこちらへと視線を向けた。 「――兄弟同士じゃ……キスなんて、できないし」 咄嗟に照れた俺は、窓の外を眺める。 赤信号で偶然停車した翔琉は、俺の唇を強引に奪う。 それは一瞬であったが、翔琉の強い想いが伝わってくる。 目の前の信号が青へ変わると、唇は余韻を残し離れていく。 「――そうだな。兄じゃ、颯斗の全てを独り占めできないもんな」 ニヤリと笑む男は、すっかりいつもの龍ヶ崎翔琉だ。 悔しいけれど、やはり翔琉は兄的存在ではなく、いつも傍にいてくれる 大事な、 大事な――存在だとこれからもずっと嬉しい。 赤らむ頬を隠しながら、そう思ったのだった。 fin.
/208ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1704人が本棚に入れています
本棚に追加