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いつも車に積む自転車は、今日ここへ来た時に停めておいた場所で留守番となってしまう。
どうやら今夜は、帰してもらえないようだ。
この情勢で逢えなかった時期もあり、以前に比べて一度逢うと、翔琉からの想いがとにかく強い。
強くて、つよくて……
最近では、それも心地好い。
明らかに自分は、“龍ヶ崎翔琉”という贅沢を全身で覚えてしまった。
「――翔琉が兄なんて、やっぱり……嫌です」
すっかり見慣れた夜道を運転する翔琉に、俺は告げた。
チラリと運転席の翔琉がこちらへと視線を向けた。
「――兄弟同士じゃ……キスなんて、できないし」
咄嗟に照れた俺は、窓の外を眺める。
赤信号で偶然停車した翔琉は、俺の唇を強引に奪う。
それは一瞬であったが、翔琉の強い想いが伝わってくる。
目の前の信号が青へ変わると、唇は余韻を残し離れていく。
「――そうだな。兄じゃ、颯斗の全てを独り占めできないもんな」
ニヤリと笑む男は、すっかりいつもの龍ヶ崎翔琉だ。
悔しいけれど、やはり翔琉は兄的存在ではなく、いつも傍にいてくれる
大事な、
大事な――存在だとこれからもずっと嬉しい。
赤らむ頬を隠しながら、そう思ったのだった。
fin.
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