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「違うのか? 以前この家で俺は颯斗の母親に生涯大事にすることを誓ったはずだが」
すると唐突に翔琉が、「あ」とわざとらしい声を上げた。
「先にプロポーズされたのは俺のほうか」
考え込むように翔琉が告げると、颯斗の背後からきらきらと輝く左手の薬指を眼前へかざし、ひとり納得したように大きく頷く。
「颯斗が俺の旦那様か……悪くない。俺を養ってくれるか?」
「悪くなくない、ですよ!」
まるで直前の思考を読まれたような羞恥と驚愕。しかも、実際には自分が一生かかっても稼げないだろう額を、すでにその年で稼いでいる翔琉を養う自身も責任も持てないからだ。
「養われるだけも嫌ですけれど、翔琉のようなお金持ちを養うのも甲斐性ないので嫌と言うよりは無理ですよ」
淡々と告げると、翔琉が別案を持ち出す。
「そのへんは大丈夫だ。颯斗と二人、慎ましやかな新婚生活を送る覚悟はできている」
とは言っても、翔琉のいう「慎ましやかな生活」が実はとんでもなく派手なことを今の颯斗は知らない。
「慎ましやかな、って……少なくともポルシェやゲレンデを乗り回すような贅沢な生活は保障できませんが」
当惑しながら翔琉を振り仰いだ。
「それに関しては俺自身で善処しよう」
「それじゃあ結局、俺が養わなくてもいいじゃないですか。今まで通りで」
嫌味たらしく言い返すと、指環の嵌められたその手で鼻先をぎゅむ、と摘ままれれてしまう。
わ、と声を上げるとさらに翔琉は意地悪く鼻を強く摘まんでくる。
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