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高遠颯斗、21歳。とうとう教習所に通う。
※時系列的には「愛されポインセチアが花咲く夜」から、「キラキラ甘い、夏至の候」の間のお話です。ちょっぴり切ないですが、最後は甘々仕立てです。
◇◇◇◇◆◆
とうとうやって来てしまった。
就職活動の時期が。
大学構内にある就職支援センターの門を初めて叩いたその帰り、高遠颯斗は親友の赤羽心織から自動車免許を取るための合宿へ誘われていた。
最短十六日間。
コンビニのフラッペマシンを操作する前に、心織が颯斗の眼前へ一枚の用紙を突き付けた。
ポップでカラフル。強烈なゴシック体が、ど真ん中で颯斗の視覚へ訴えてかけてくる。
「やっぱりさ、就職試験にあるとないとじゃ違うと思うんだよね。要普免」
今月限定のフラッペは、チョコミントらしい。
あざやかなターコイズブルーにチョコチップが混ざったプラスチックカップに、心織が目の前のマシンでミルクを注いでいく。
たちまちミント特有のハーブの香りとミルクの香りが、周囲にふわっと立ち上る。
すぐさま心織は手馴れた様子で、ストローを使って中身をかき混ぜていった。
ブルーとブラウンとホワイトが攪拌され、透明なカップにキレイなマーブルの断面層が浮かぶ。
初夏らしいカラーだ。
「で、当然颯斗くんはお値段が気になるだろうと思ったから、教習所へ通うルートじゃなくて、お安くなる合宿プランを選んできたんだぜ。しかも、交通費込みでこれだけの値段」
ドヤ顔の心織はカップを持っていないほうの手で、用紙の下方に申し訳なさそうに表記された値段をびしっと差す。
自然と颯斗の視線は、心織の指先の文字へと誘導される。
たしかに就職活動が本格的に始まるまでには、自動車免許を取りたいと思っていた。
どんな業種へ行くにしろ、自身の選択の幅を狭めたくないからだ。
そして、ふと翔琉の顔が脳裏に浮かぶ。
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