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電波を遮るものが何もない、深夜のFMが流れる車内。
その鮮明さが超人気俳優、龍ヶ崎翔琉が最上階に居を構える港区のタワーマンションが目と鼻の先であることを知らせている。
――暖房が少し、暑すぎないか?
込み上げていたものが凪いだ俺は、ようやくその事実に気が付いた。
いつもより少し強めに設定されていた車内の暖房は、それだけ翔琉が長時間外で待っていたことを物語っている。
同時に、翔琉は俺が落ち着くまで一切喋らないつもりなのか。ハンドルを握ったその瞬間から小一時間、沈黙を貫いていた。
外車のハンドルを握る翔琉の、その左手の薬指には、クリスマスに俺がプレゼントしたゴールドの安物の指環が相変わらず神々しく煌めいている。
自身の不安から、多忙過ぎる翔琉を随分と困らせてしまった。
翔琉は指環をしっかり嵌め、俺への愛を堂々と示してくれているというのに……。
「もういい加減、子ども過ぎて付き合いきれない」今夜のことは、そう言われても仕方がない案件だ。
酷く自身の行動に後悔した俺は、歯痒さから唇をキュッと噛む。
いつものようにタワーマンション地下駐車場の定位置へ翔琉は難なくバックから駐車すると、これまたいつものように俺が降りるより先に助手席へと回り、スマートにエスコートする。
明日……否、日付変わって今日も早朝から正月の特別番組の生放送だと電話で話していた。
時刻は既に朝の四時。
もしかすると、翔琉は一睡もせず仕事に出掛けていくのではないだろうか。
また迷惑を掛けてしまったのだと、強い罪悪感が心を大きく占めていく。
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