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旧暦では、一月を睦月と呼ぶ。 由来は諸説あるようだが、正月になると家族や親戚が集まって、仲睦まじく過ごすことから「睦び月」、短縮して現在の「睦月」と呼ぶようになったそうだ。 思春期真っ只中の多感な十五歳の頃、俺、高遠颯斗(たかとおはやと)の父は事業に失敗し破産寸前。親戚はおろか、借金返済で休む暇無く働く両親と顔を合わせる機会はほぼ皆無に等しかった。 同時に、自らの身に振りかかってきた高遠家長男としての無言のプレッシャー。 高校時代、周囲が次々と彼女を作っていく自由さを酷く羨んでいた俺。 時には周囲に合わせて「彼女が欲しい」そう言っていたし、「こんな俺と付き合いたい」もしくは、「俺のことを好きだ」と。いつの日か、こんな俺にそう言ってくれる彼女が現れるのではないだろうか。 密かに期待していた反面、明らかに周囲と抱えているものの大きさが違っていた俺は、矛盾してはいたが何処か恋愛と一線を引いていたのもまた本心であった。 恋愛よりもまずは家族を。 もう一度、家族全員が笑顔で睦び合える日が訪れるように俺も頑張らないと。 頑張った先に、“高遠颯斗”という人間を理解して、好きになってくれる女性が現れてくれたら……。 密かにそう願っていたのだが、いつの間にか俺の心を奪ったのは……睦び付いた相手は他の誰でも無い、俺より十も年上の男で。 しかも、誰もが憧れる超人気俳優龍ヶ崎翔琉だったなんて。 本当に人生、何が起こるか予測が付かないものだ。
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