突然の訪問者

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 私はいつも通り盗聴器に耳を傾けていると、何ということでしょう、知らない男の声が聞こえるではありませんか。彼女とその男の話しぶりから察するに、彼女の本物の恋人のようでした。  私は椅子に座り、音に聞き入っておったのですが、その時は何とも言えないやるせなさを感じ、ついには椅子に腰をかける余裕もなくなり、気がつけば地べたに横になりながら聞こえてくる音に耳を傾けておりました。  今思えば、男の存在を認識した時点で盗聴器を切ればよかったと思うのですが、その時は怖いものみたさと申しましょうか、愛しの彼女とその男は果たしてどんな会話をするのだろうかと興味が湧き、場合によっては、男より私の方が彼女にとって相応しい存在なのではないか、彼女にとって本物の恋人はどちらなのか検証してやろうという魂胆を持ったのでございます。  検証は私の有利な状況が続きました。途中、男は古風な思想を持っているのか、彼女のSNS活動を否定する場面がございました。それは不特定多数の閲覧が可能で、個人情報が筒抜けなることを危惧する発言でした。 私は密かにどきりとしましたが、彼女がSNSに懸ける思いを熱弁した結果、事態は丸く収まったようです。  検証も終盤に差し掛かった頃、私の内に秘めた嫌な予感は的中しました。男女が一つ同じ屋根の下にいると、情欲というものが湧き上がってきます。私が盗聴器で聞いているとはしらずに二人の秘密のランデブーが始まったのです。  検証は中断されました。ああ、なんということでしょうか。私と彼女の過ごした甘美な思い出が走馬灯のように私の脳を駆け巡った後、幸福の絶頂から悲しみの深淵へと一気に転がり落ちていく感覚が私の身体を支配しました。  恋というものは盲目なものです。愛しの彼女が果たして好きなのか、嫌いなのか分からなくなりました。愛と憎しみは紙一重とはよくいったものです。  私は一つの決心を固めました。それは私の恋人に実際に逢うということです。検証は最後までいかず中断となりましたが、私がどこの馬の骨か分からない男よりも優れていることは誰よりも心得ています。本物の恋人はこの私ということを甘美なお嬢さんに知ってもらい、煌めく恋を謳歌したいのでございます。
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