22年前

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「あちーっ!」  扉を抜けると、もあっとした空気が全身を包んだ。着てきたスーツを後悔した。上着を脱いでワイシャツの腕まくりをする。今回の配達は、真夏なのを忘れていた。  四階にいたはずなのに、地面に降り立ったせいで、地下にも何かあるような気分だ。気を取り直して地面に置いた鞄を持ち、眼鏡をかけてスイッチを入れると、前回と同様に近くのバス停へ向かった。  俺の仕事は、配達員。少々特殊。何やら特別なものを、特別なんだろう人へ届ける。実際何が入っているのかは分からない。今回は厚くてデカイ封筒が一つ。前回はダンボールに入った何かだった。何が特殊かといえば、時を超えて配達するということ。  そう、俺は今22年と2カ月前の夏の季節に配達にきたんだ。  携帯で日にちを確認する。8月10日火曜日、10時10分。バス停までは人と会わずに、ちょうどきたバスに乗り込んだ。  バスの中は、平日だからか客が3人しかいなかった。マニュアル通り顔を見ながら1番後ろの席に着く。眼鏡のレンズを通して、音もなく客の顔が撮影される。 『女の子のスカートの中、撮影できんじゃね?』  同僚の生田が呟いていたのを思い出す。配達の一部始終を後からチェックされるんだから、ヤバイだろ。そう言った俺の顔を見て、心底ガッカリしていた生田の顔を思い浮かべて1人ニヤついていた。  郊外の街並みから商店街を通るにつれ、駅前が近く事に気づいた俺は、気を取り直して携帯を出し、今日のスケジュールを確認した。  最寄りの駅から東京駅まで電車に乗り、東北新幹線に乗り換える。目的地の仙台までは、3時間弱。予定通り配達できそうでほっとする。列車の窓側の席に座ると、急に眠気が襲い、窓にもたれながら目をつぶった。  22年前は、1歳だった。神奈川県で生まれ育った俺もこの世界にいるんだ。2歳の頃に一軒家を買うまで、狭いアパート暮らしだったって言ってたな。どこにあるんだろう。5年前に死んだ祖父ちゃんもまだ生きてるんだ。会いたいな。  タブーを破ると、どんな悲惨な事が起こりうるか、半年間みっちり叩き込まれた。だからなるべく、人と接触しないように神経を使う。破るつもりはないが、思うのは自由だ。22年前のほとんど持ってない記憶に想いを馳せながら、目を閉じた。
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