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仙台の街は空気がどこか清々しい。湿気が少ないのか、目に飛び込む緑がそうさせるのか。俺は前回のように迷わず大学行きのバスに乗り込んだ。
1時間程の仮眠もとってスッキリ。途中で買った駅弁も食べたからお腹も膨れてる。これから向かう道筋を思い浮かべて気持ちを集中させた。
大学の目の前の7階建てのマンション。グレーの外壁が周りの建物より近代的に見せている。ここの405号室が配達先だ。昔はセキュリティーがまだ甘かったようで、誰でも玄関先までたどり着ける構造だった。
インターホンを鳴らすが、応答はない。
「留守……かなあ。」
もう一度鳴らすと、カチャリと音がして扉が少し開いた。
「FO配達です。巌城洸(いわきひろし)様にお届け物をお持ちしました」
隙間から覗き下を見ると、小さな男の子がこちらをじっと見ていた。
「お家に誰かいませんか?」
思わず笑顔になって声をかけると、男の子は黙って扉を閉めてしまった。
慌てた俺がインターホンをまた鳴らす。
「巌城さん! いわきさーん!」
扉をドンドン叩いていると、通路の奥の方から声が聞こえた。
「はい?」
声のする方を見てほっとする。白のポロシャツにジーンズを履いてスーパーの袋を下げた巌城さんが、ビックリした顔で立っていた。
「どうぞ。」
リビングに通された俺は、初めて見る部屋に戸惑っていた。1番に目についたものはテレビだ。大きなダンボールのような形で、上には沢山のミニカーが飾ってあった。
巌城さんはテーブルに麦茶を出すと、荷物を受け取り奥の部屋に籠もってしまった。今、テーブルにいるのは小さなプラスチックのカップで麦茶を舐めている男の子だけ。
「名前はなんていうの?」
沈黙に耐えきれずに話しかけるが、男の子はちらっとこちらを見ただけで、また麦茶を舐めはじめた。
『犬か!』
心の中でツッコミながら、おれも冷えた麦茶をいただくことにした。今回は、巌城さんから書類を預かる事になっている。荷物を渡しただけで帰るわけにはいかない。
しばらくすると、男の子は部屋の隅に置いてあった新聞と折り込み広告を持ってきて、広告を1枚床に置くと何やら作り始めた。俺は新聞の方に目を落とす。1998年8月8日という日付けに過去に来たことを実感する。
「新聞使ってもいい?」
男の子がこちらを見ずに頷くのを見た俺は、新聞紙を1枚とって紙鉄砲を作り始めた。
パーン!
勢いよく振り下ろした紙鉄砲は、大きな音とともに両側とも開いた。男の子が目を丸くしている。作り方を教えようか? と言いかけたが、奥の部屋の襖が開かれる音にかき消されてしまった。
「洸(こう)! 何だ! どうした? 大丈夫か?」
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