14年前

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「はあーっ。温まったぁー。」  こう君が脱水まで終わった洗濯物を持って現れた。洗濯機が回っている間ずっと入ってるって長くないか? こう君が持っている洗濯物を受け取って、居間のストーブのそばに干しにいった。いつもここに干しているようで、天井から吊り下げられている金具に、角ハンガーを取り付け、一つ一つ干した。 「ありがとな。洗濯。」  俺がパンツを干しながら話しかけると、こう君が不思議そうな顔をしていた。自分のパンツを眺めている。 「……小野寺さんのパンツ、カッコいいよね。」 「!」  俺は瞬時に固まった。グレーのボクサーパンツ……。この時代に無かったのか!? 「そ、そっかな。グレーで目立たないし。こう君のパンツの方がいいよ。お洒落だ。」  こう君のパンツはペイズリー柄のくすんだ赤色のトランクスだ。赤と茶色の中間ぐらいの色。中学生にしては派手なような気がするが……。 「ばあちゃんが派手好きで、珍しい柄があると買ってくるんだ。」  こう君は困ったようにため息をついた。 「そうだ! こう君、クリスマスプレゼント何がいい?」  ボクサーがあるかどうかは分からないが、あったら買ってプレゼントしてもいい。明日、どこ行こうか。 「え! クリスマスに会えるの?」  一瞬で顔を輝かせたこう君を見て後悔した。 「あ、あの、えっと。あ、明日にでも買いに行ければ……。」  しどろもどろになる俺を見て、明らかにこう君はガッカリした顔になった。 「そっか……。でも……。ねぇ、プレゼントいらないから、今日一緒に寝よ?」  一瞬で復活し、目を輝かせたこう君を見て戸惑った。今までも座敷で、こう君と巌城さんと3人で川の字になって寝てたのに……。 「俺、去年から部屋で一人で寝てるんだ。だから……ね? 座敷じゃ無くて、俺の部屋で一緒に寝よ?」  ああ、そんなことか、と俺はほっとした。こう君とお喋りしながら夜を過ごすのも悪くない。 「いいよ。一緒に寝よう。」  こう君はそれからずっと上機嫌だった。おじいさんとおばあさんが買ってきたお刺身を、手作りの煮物と一緒に夕食をとっている間も、冗談を言い続けて、おばあさんに呆れられていた。巌城さんもビールを飲みながら、そんなこう君を珍しそうに眺めていた。 「小野寺さん、本当に飲まないんですか?」  初めて泊まった日から、巌城さんは俺に酒を勧めるが、いつも断っていた。酒は得意な方じゃないし、ここへは仕事できている。……そのはず。酒を飲んで酔っ払って醜態だけは晒したくなかった。
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