22年前

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「ただ今戻りました。」  すっかり暗くなってから戻った俺は、黙ったままのコウイチに出迎えられた。決められた通り眼鏡を渡し、部屋の隅にあるカプセルに横になる。そのカプセルは繭のような形で下半分が白く輝いている。素材が何か分からないが、プラスチックのように硬く、冷たくない。むしろほんのり温かくて気持ちいい。透明な蓋が閉まる前に、疑問に思っていたことを聞いた。 「ね、コウイチさんは何歳? 若いよね? でも俺よりは年上だよね? 名前で呼んだ方がいい? それとも名字? ……あれ? 名字なんだっけ?」 「黙れよ。お前喋りすぎ。……おやすみ。」  コウイチは俺の質問には一切答えず、透明な蓋を閉めた。上から覗いたコウイチの目が髪の下から見えた。切れ長で鋭い。何かを探すようにじっと俺の顔を見ている。その目に見られるのは嫌ではなかった。 「なあ……」  今度飲みにでも行こうぜ。そう言おうと思ったのに、充満してきたガスで眠ってしまった。  ふと目が覚めると、窓から明るい光が差し込んでいた。カプセルの蓋は開いていて、毛布がかけられていた。頭には枕が敷いてある。 「やべっ! 今何時だ?」  慌てて起き上がる。枕元の携帯を見ると6時25分だった。10月11日。俺はここにお泊まりしてしまった事に気づいた。同時に部屋の反対側の壁が音もなく開く。 「起きたか……。」  裸で腰にバスタオルを巻いただけのコウイチが出てきた。頭が濡れている。風呂に入ったのか、濡れた前髪が束になっていて、その間から昨夜見た切れ長の目が覗いていた。オタクっぽい風貌なくせにいい体をしている。ちょっぴり悔しい。負けるな俺。今日から毎日筋トレ30分だ。 「何をジロジロ見てんだ?」  その言葉にハッとして、顔が熱くなった。鏡を見なくても分かる。俺、今顔赤い。でも、気力を振り絞って叫んだ。 「筋トレやる!」 「……は?」  一瞬ポカンとしたコウイチは、 「ちょっと待ってろ。」 と言って奥の部屋に消えて行った。コウイチの手紋で扉が開くと、味噌汁の香りが漂って来た。扉が閉まる瞬間の奥の部屋に、キッチンや本棚がちらりと見えた。 『へぇ、アイツの部屋か。ここに住んでいるって本当だったんだ。』  興味津々でカプセルから降りると、何となくコウイチが消えて行った壁に引き寄せられた。  あと二歩で壁が触れるとこまで来たとき、いきなり壁が開いた。 「おわっ! ビックリしたあ。」  じろっとこちらを一瞥したコウイチは、大きな盆を抱えて戻ってきた。 「なにやってんだ。……メシ。」  パソコンが3台も乗ってる大きな机に空きスペースを作り、お盆をそのまま置いた。
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