3町の人々は普通でした

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「モブとはいったい何のことでしょう。それに黒髪黒目とは……。」  カナデはこの世界に来てからの自分は、心の言葉が口から出てしまうことに気付いた。気をつけないといけないと気を引き締めることを心に誓った。 「いや、別に今のはただの独り言です。気にしないでください。」 「そうですか。では、私たちはここで今日の宿と食料を調達していきますが、カナデはどうしますか。見たところ、お金を持っているようには見えませんし、その格好から見るに、この辺の住人ではないようですが。」 「また面倒事を抱えようとしている。イザベラ、そういうお人好しなところを直さないとそのうち痛い目見るよ。」  カナデはしばし考える。女神にこの世界に呼ばれた理由はわかっているので、元の世界に帰りたかったら、その理由とやらを解決するしかない。そもそも、元いた世界に帰ることはできないということも覚悟はしていた。とはいえ、目的を果たさないことには、戻ることもできないし、この世界に自分がいる意味がない。  まずこの世界の情報が不可欠。カナデは人見知りで、本来、初対面の相手とすぐに仲良くなる術を持っていない。教室の隅で一人寂しく過ごすような暗い学校生活を送っていたのだ。よく社会人になり、正社員として仕事をしていると自分をほめたくなるほどのコミュ障だった。しかし、どうも、異世界に行くと、コミュニケーション能力は自然と身につくものらしい。  カナデも例外ではなかったようだ。口からはすらすらと言葉が紡ぎだされる。 「すいません。実は、イザベラさんの言う通り、私はこの辺の人間ではなくて、よろしければ、一晩だけ一緒に過ごしていただけないでしょうか。」  カナデは自分の言葉に苦笑する。コミュ障の自分がそんなことを頼めるとは思っていなかったが、そんなことを気にしている余裕はない。とりあえず生きていくためには彼女たちの話を聞く必要がある。女神からの与えられた力なのか、主人公補正としての能力なのかはわからないが、ありがたく利用することにした。
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