5勇者はオタクでした

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「まだ集まらないのですか。司祭。いつになったら魔王討伐をすることができるのでしょうか。」 「ゆ、勇者様。控えの間で待っていたはずでは……。」  カナデの言葉は新たな第三者によって遮られた。その男を見た瞬間、これは自分も魔王討伐をしなければならないと思ってしまった。  カナデは知っていた。司祭が勇者と呼んだこの人物とやらは、自分同様に異世界、つまり日本から来た転移者だろうということに。それからの展開も容易に想像できた。  想像通りに物事が進むのだとしたら、あまりにもイザベラとエミリアが可哀想すぎる。もともと、異世界転移・転生物でのお約束事に不満を持っていたカナデである。目の前の男を目にして、考えを再度改めた。魔王をこのオタク勇者とともに倒すことに決めた。イザベラとエミリアをオタク勇者の魔の手から守れるのは自分しかいない。  男は黒髪黒目で、前髪が目を覆い隠すように長かった。前髪によって目が隠れていて、いかにも陰気くさいオタクオーラをまとっていた。服装は、もといた世界の制服だろうか。黒い学ランを着ていた。ということは、高校生ということになるのだが、カナデは頭を抱えたくなった。  あまりにもテンプレすぎる展開だった。男はどう見ても、見た目からして陰気くさい。カナデはぞくっと鳥肌が立った。大抵、異世界転移する者は、現実世界、もといた世界でコミュ障、オタク、根暗、陰気くさいと相場が決まっている。そうでないにしても、社会に溶け込めない引きこもりや社会に溶け込めないものが大半だ。たまに過労死寸前のサラリーマンもいるようだが、それは今は無視することにした。  カナデはその転移者とヒロインたちの関係のおぞましい結末を知っている。それこそ、どう考えても、もて要素のない異世界転生者は、神様か女神にチート能力をもらい、異世界で無双することになるのだ。魔王を倒したり、その他の悪の組織を倒したりする。そして、その転移者の周りには、なぜか仲間を称した女性がわらわらと集まってくる。  お姉さん系、妹系、ツンデレ系、ろり系、ケモミミコスプレ系、清楚系など、男性が好きそうなタイプの女性が勢ぞろいする。どうして、こんなバランスよくいろいろな女性が異世界転移者の周りに集まってくるのか謎だが、そういう仕様なのだ。さらには、その女性ほとんどの服装が目に毒だった。女性のカナデから見ても毒だと思うのだから、男性にとってはどうだろうかと想像したくない。イザベラやエミリアのような格好である。  女性たちは、ただ異世界転移者の周りに集まるのではない。一緒に魔王討伐や悪の組織を倒すメンバーとなるのだ。男性も加わって倒した方が、効率がいいと思うのだが、メンバーに男がいることはめったにない。異世界転移者をのぞいて。そのせいで、すぐにハーレムの完成だ。  集まってきた女性は、何が良いのか、勇者の行動に感銘を受けて、あっという間にハーレムエンドまっしくらで見事話はハッピーエンド。  その展開が目の前で起ころうとしている。それだけは阻止したい。 「私の名前はカナデ。神からのお告げにより、私も魔王討伐に参加することになりました。「聖女」として、魔王討伐に尽力していく所存であります。」  カナデは、目の前の勇者にはっきりと自分の存在理由を目の前の男に示してやった。すでに魔王を倒さずに、この世界でのんびりと魔王が倒されるのを待っている気持ちはなくなっていた。
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