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勇者についていき案内されたのは、教会から少し離れた場所にある建物の中だった。建物の中の控えの間に入り、二人きりになったとたん、勇者は口調を変えてカナデに問いただす。
「さっきの日本というのは本当か。いつ、この世界に来た。能力は。この世界に来た理由を知っているか。」
矢継ぎ早に質問されて、何から答えようと考えていると、勇者はまずは自己紹介することしたようだ。
「まあ、日本という言葉が出た時点でオレと一緒の立場ということか。オレの名前は勇利(ゆうり)。皆からはユーリと呼ばれている。もといた世界では高校生だった。女神から異世界に転移させられて、今は勇者として魔王討伐を命じられている。この世界に来たのは、一週間前だ。」
「そう。次は私の番というわけね。名前はカナデ。私も女神からこの世界に魔王を討伐して欲しいと言われたの。あんたはやっぱり高校生だったの。それなら、私にもっと年上として経緯をはらうのが賢明ね。」
「いやだね。年上というより、ただの行き遅れのババアだろ。そんなのに敬意をはらうほど、オレは落ちぶれていないね。どうせ、彼氏いない歴、年齢だろ。おまけに処女と見た。」
「ば、バカにしやがって。」
「お前だってオレに同じこと言ってただろ。これでおあいこだ。」
「まあ、確かにお互い、勇者でも聖女に向いていないということね。」
その言葉にユーリは反論する。
「はあ、オレが勇者に向いていないわけがないだろ。異世界転移・転生といったら勇者と聖女だろう。オレは勇者として選ばれた存在だ。だとすると、お前は、待てよ。ということは、お前は、せ、い。」
ユーリが最後まで言葉を続けることはなかった。途中で自分の言っている言葉が信じられなくなったのだろうか。それ以外に思いつくものがないのだろうに。
「そこまで言って止まらないでくれる。そう、お察しの通り、私は聖女としてこの世界に呼ばれたわけです。残念ながら、」
「うそだといってくれれれれれ。」
部屋中に響く声で、ユーリは絶望の声をあげた。カナデも同じことをユーリに叫びたかった。しかし、ここで二人そろって叫んでも、現状は何も変わらない。
「いや、お前の方こそ、勇者なわけないだろ。その容姿でよく勇者といえたものだよね。勇者と言ったら、イケメンの強そうな頼りがいある人物が相場と決まっている。それなのに……。」
代わりに、ぼそっと勇者に対しての反論を述べるだけにとどめた。しかし、ユーリがしたことをそのまま行動にして返してやった。上から下までをじっとりと眺め、はあと大げさにため息を吐いた。その態度にユーリもカチンと来たようだ。
「だって、オレは異世界転生したくてしたくて、自殺までしたんだ。まあ、結果的には異世界転移だったが、それでも異世界に来ることはできた。なのに、どうして、オレのハーレムにこんな男女みたいなやつが紛れているんだよ。許せん。オレはこれから、美女を集めてのハーレムエンドまっしぐらだったのに。」
「そのハーレム展開に、私は常々イライラさせられてきたんですけど。この世界に私がいる限り、イザベラもエミリアもあんたみたいなクズ野郎には渡さないから。」
「言わせておけば、このおとこんなあ。」
ユーリは我を忘れて、カナデにつかみかかろうとしたが、それがかなうことはなかった。
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