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7本物の聖女が現れました
「コンコン。」
カナデとユーリの口論は部屋のノックで中止された。とっさに今までの声が部屋の外に聞こえていないかユーリに確認するカナデに、ユーリは首を横に振る。
「とりあえず、オレ達の声は外に漏れることはない。部屋に入る際に、防音魔法をかけておいたからな。」
「あっそ。もといた世界でそんなことを口走っていたら、中二病を患っている痛い人だったでしょうね。」
「誰ですか。」
カナデの皮肉を無視して、こほんと軽く咳ばらいをして気持ちを落ち着かせて、ユーリが部屋の外の主に問いかける。
「司祭様にこちらに魔王討伐のリーダーである勇者様がいると聞いたのですが。」
鈴の音を転がすような可愛らしい声は、きっとその声に似あう可憐な少女が外にいるのだろうと予測させる。カナデがユーリの顔をのぞくと、同じ考えだったのだろう。顔が緩み切っていて気持ち悪かった。
「どうぞ。中にお入りください。」
ユーリはあっさりと入室を許可した。あっさり過ぎて気持ち悪さ倍増である。遠慮がちに扉が開き、部屋の中に声の主が姿を現す。
『これこそ、理想の聖女様。』
二人の心の声は見事にハモった。異世界転移・転生物の定番の聖女の容姿をそのまま体現した感じだった。
黒い髪は肩までさらさらと背中に流れている。年齢は10代前半だろうか。大人になり切れていない線の細い、きゃしゃな体格をしている。瞳はもちろん、真っ黒の漆黒の瞳。肌は透き通るように白く、瞳はぱっちりとした二重。唇はプルプルで、思わずかじりつきたくなるようなピンク色である。服装は、聖女らしく、白いローブに身を包み、黒い髪によく似合っていた。
二人はじっと聖女をみつめている。本物の聖女に出会えたという感動で、我を忘れているようだ。
「ええと……。」
聖女らしき人物が戸惑っているのを見て、ようやく我に返る。コホンと、今度はカナデが咳ばらいをして話しかける。
「司祭様にとおっしゃっていましたが、どのような用件でしょうか。私はカナデと申します。そこのゆ、う、しゃ、様の従者として、この度の魔王討伐を命じられているのです。」
「な、そんな、いった。」
ユーリの反論をカナデが足を踏んで止めさせる。こんなにも聖女聖女した女性が来たということは、彼女が本物だ。だとすれば、自分は余分なものであり、このままでは魔王討伐メンバーから外れてしまう。それだけは避けなければならないと、とっさの判断だった。
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