1テンプレ的転移をしました

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 カナデは、疑問であり、同時に不満であったことを女神に話すことにした。それは、聖女として、自分が呼ばれたことだった。大抵、聖女として呼ばれるのは、つやのあるストレートの黒髪ロング、真っ黒な黒曜石に似た輝きを持つ瞳、小柄ですらりとした体躯、色白で肌が透き通るようにきれいな、清楚系の美少女だ。間違っても自分のような人間が呼ばれるのは場違いだと思ったのだ。  カナデが思っている通り、異世界転移・転生物の理想の聖女像とは、カナデはあまりにもかけ離れていた。そもそも髪の色、髪型からすでにアウトだった。カナデは明るい茶色に髪を染めていた。さらには、男子並みに短いショートヘアスタイル。そして、体型もお世辞にも聖女とは言えない。168cmある、女性にしては高めの身長、肌の色はどちらかというと浅黒い。さらに言うと、かなりの近眼で、メガネのレンズはフレームからはみ出していて、いわゆる牛乳瓶の底のようにレンズが厚かった。  しかし、カナデは気づいていた。今回の自分のように、女神が欲しかった人材とは別のものを呼んでしまうこともあるのだということを。ただし、それは一言で言うと、 『失敗したのじゃ。』  カナデの心の声と、女神の声が二度目の重なりを見せた。そう、女神さま自らが発した「失敗」。本当に呼び出したかったものとは違うものを呼んでしまうというミス。これが起こってしまう場合もあり、そのような展開の小説を読んだことがある。まさにこれは女神さまが犯したミスである。 「失敗したのなら、私は聖女に向いていないということですよね。それならもう一度、誰か聖女になり得る人材を引き寄せてください。」 『それがいいとは思うのだが、いくら我が優れた女神だとしても、異世界からの召喚は意外と力を使うのだ。すでに聖女と対になる勇者としての人材は召喚済みじゃ。もう一度力を使う気はおきぬが、まあ、主が聖女というのも、その容姿では不審がられるだろうに。だから、特例として、もうひと、り、を、よび、よせ……。』  最後まで言い終わらないうちに、女神さまは徐々に透明になり、その場から消えてしまった。あまりにも唐突に女神はカナデの目の前から消えてしまった。  残されたカナデの姿も急に透明になりだす。 「途中で説明を終えるなああ。」  カナデの叫びもむなしく、彼女の姿もこの空間から消滅した。  異世界転移をまさか自分の身で経験するとは思っていなかったカナデの長い異世界生活が始まろうとしていた。
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