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 しばらくクレープを堪能した私たちは、またあの本の話題になった。『死人は夢を見ない』その一節が茶柱の興味を引き立たせたらしい。 「でも死んだ人が夢を見てたら、それって死んでないってことになるのかな?」 「どういうことです?」  手許のコーヒーを一仰ぎした茶柱が小首を傾げる。さらさらの髪が左右に揺れ、陽を反射して白く輝く。 「ほらだって、人は1日の三分の一睡眠をとるでしょ? でもって睡眠とは『一時的な死」だってどこかの本で書いてたよ」 「ええと、聖ヨハネの『感覚の暗夜』と『魂の暗夜』だっけ……。『象徴的な死』でしたっけ?」 「聖ヨハネはうつ状態から内面を見つめるとかのやつでしょ。それに象徴的な死は確か、人生の分岐点で人は死に新たな生と化す、とかいうやつだよ」 「僕、哲学に興味はないんですけど」 「だったらテキトーなこと言わない」  渋い顔をして頭を捻る後輩の額に一差し指を軽く当てる。きょとんとした顔もまた愛らしい。
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