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 追加注文したモンブランを物欲しそうな後輩に分けてやりながら、椅子を後ろに傾けてわざとらしくため息を吐いた。 「一時的な死、ですか……」  難しそうな顔をする彼の瞳に、なんとなくそわそわしながら手許のアップルティーを啜った。ガラス越しに見える風景にどことなく寂しさを感じる。茶柱は数分間じっとしていたが、諦めていまはモンブランにかぶりついている。芸術的なまでの均一に整えられたクリームの頂きに、白い生クリームとともにちょこんと一つ添えられた甘栗がかわいらしい。 「もうっ、ついてるよ」 「へん(せん)ふぁい(ぱい)ほっへ(とって)」  可愛い後輩が甘えてくるので仕方なく頬のクリームとってやると、幼げな花が咲く。それに優しく微笑んで鞄に視線を向ける。古ぼけた表紙が覗くのを一瞥し、そっと視線を前に戻した。 「どうかしましたか?」 「ううん、なんでもないっ」  首を傾げる少年に苦笑いを返す。秋の風が外気をいっそう冷やすなか、約束された日常が過ぎていった。
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