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 目が痛い。  ぶくぶくと水底(みずぞこ)から泡が咲く。照明の光が深い暗闇を照らし、御手洗小豆は水面から顔を引き上げた。水圧が肌を圧迫して大きく飛沫したお湯が肺に入る。少し咽せて息を吸い込み、ふう、と息を吐く。 「――寒い」  もう一度湯に体を丸めても、それは変わらない。身体は温まっているはずなのに、心がしんとしていて、もの凄く寂しく思う。  仕方なく立ち上がって浴室を出ようとすると、真横の鏡に目が留まった。  白い肌が靄のように写り出る自身の肉付きになんとなく見取れる。鏡に写りゆく虚像に手を添えると、それまで自分を真似ていた誰かが芝居を止めるように、口元が無骨に曲がる。不気味に顔を歪めるそれはまるで私を嘲るように聞こえない笑声を発した。            錆びた着いた角から緋い水滴が流れいく。  血滴のようなそれが鏡のなかに立つ彼女を真っ赤に染めゆく。  ぎょっとして、手を引っ込めるとそこにはもう何も無かった。ほっとため息をついて、浴室を出る。湯冷めしそうだ、そう、思った。    
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