第1話『Courtship demon』

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 きゅるる、力ない音が聞こえたかと思えば猛烈な空腹感に襲われた。 「おなか空いたね。お昼食べにいこっか」  ぱっと立ち上がって衣服の埃を払う。丈の短いスカートが風に揺れ、白い太股が陽に晒される。茶柱も同意見だったのか、スケッチブックを鞄に収めて立ち上がった。 「そうですね、今日はどこにします?」  階段を一段飛ばしで跳び降り、廊下を渡る。硝子扉に反射する陽の光を手で遮りながら、上靴を靴箱へと投げる。陸上部の練習するトラックを通り抜ければ、ウェットに染み込んだ汗が未成年限定の爽やかさを醸しだして、特に嫌な気はしなかった。 「う~ん、最近寒いからカフェでいいかな」  門を潜り抜けて私が言うと、途端に足音が止まった。振り返って顔を覗くと茶柱が微妙な顔持ちで私を見つめていた。じっとりと恨むように多少の荒立ちを混じらせながら。 「……っ」 「わ、私はカフェがいいなぁ……なんて」  その反応に心当たりがほんのコンマ1程度もない、ともいえない私は、再度弱々しげに提案して、ちらりと横目で反応を伺った。 「なに寝言いってるんですか。カフェなら昨日行ったでしょ」  茶柱は眉根をぴくぴくとつり上げて、妙な微笑みを浮かべながら吐き捨てた。 「で、ですよね〜」  不愉快極まりないと言わんばかりに茶柱は鼻を鳴らしてぷいっと顔を背ける。ぷんすかっと子どものように両腕を組んで大股に早足で歩いていってしまった。
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