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「そういえば」  店員が厨房に下がるのと、注文を言い終えた茶柱が言葉を発したのはほぼ同時だった。 「先輩、さっきの本持ってます?」 「本って?」 「ほら、さっき学校で言ってたやつ」 「あの破けた小説のこと?」 「そうそう、それいま持ってますか」 「いや、持ってないけど……」  咄嗟に私は嘘をついた。鞄の紐を握る力がきゅっと強まり、嫌な汗が背筋を濡らす。 「ええ~」  残念そうにうなり声を上げる茶柱に無意識にひやりとしながら、小豆は傍らに置いた鞄のなかに目配せを送った。 「でも急にどうしたの、ただの古びた本だよ?」 「読書家にはどんな本も等しく愛するという義務がありますからね」 「なにそれ」  朗らかに笑う少年に乾いた笑みを返しながら、早く店員が帰ってこないかと後ろのカウンターに視線を移した。
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