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「おまたせしましたー」  五分ほど経ってようやく現れた店員は、両手に甘く香り立つお皿を手にして悠々と運んでくる。テーブルに鮮やかな果物で盛り付けられたクレープとアップルティーが置かれ、「ごっゆくりどうぞ」と軽く会釈して下がる。  それを見計らってテーブルに向き直ると、眼前の少年が既に甘々しいそれを頬張り始めていた。薄い生地の上に並べられた無数のバナナが、チョコレートソースを纏って魅惑的な美味しさを醸し出している。それをナイフとフォークで慣れた手つきで切り分け、口へと豪快に運んでいく。 「ゆっくり食べなよ」  苦笑交じりの一言は、頬をとろけさせる少年の耳には聞こえそうにない。幸せそうなその表情についつい口元を綻べて、小豆もクレープを切り分ける。  ホイップとバニラアイスの主張の強い甘みが苺とブルーベリーの酸味で程よく緩和され、少し焼き加減を変えて重ねてある生地が、ぱりっと歯切れの良い音とともに、食べ進めるに連れてクレープ特有のしっとりとした味に仕上がっていく。 「「お、おいひぃ」」  思わずそんな声が出てしまうことに、二人して顔を見合わせる。どちらともなく笑いが漏れ、和やかな雰囲気のもと時計の短針が午後二時を告げた。
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