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黒スーツの麗人
……人って、案外呆気なく骨になるものなのね…。
数時間前までは、血の気はないけれど、まだ肉がついていて、父だと判別できたのだが……
さすがに今、目の前にある骨だけの姿になってしまうと、この骨が本当に父のものなのかどうかわからない。
……まあ、骨を取り違えたところで、このあとは骨壷へ入れられ、墓に入るだけ。
気がつくなんて出来ないだろうから、実際には問題も起きないだろう。
そんなことを思いながら、父の骨を眺めていた。
あたしの隣では、あたしと同じように泣くわけでもなく、静かに父の骨をながめている母。
喪服姿で、長い髪はシンプルに頭の後ろでひとまとめ。
あたしも喪服姿で、肩で揃えた髪は顔にかかると邪魔くさいので、耳に掛けている。
この場では特別違和感のない姿。
そんなあたし達親子に、焼き場のスタッフが、やけに大きな不揃いの箸を持ってくる。
この箸で骨を拾うよう促され、あたしと母は指示されるがまま黙々と骨を足先からつまんでゆく。
「……二人だけだから、時間かかるね。」
哀れみの目を父の遺骸に向けて、ぽつりと母はつぶやいた。
「仕方ないよ。骨を拾ってくれるような知り合いがいたら、こうはなってないだろうし。」
正直、父はろくでもない人間だった。
手を家族にあげるようなことはなかったが、ギャンブルが好きで、少しでもお金があればギャンブルをしてしまう。
母がとてつもなく苦労し、離婚せず今までがんばってきていたのを、あたしは知っている。
はやく離婚すれば楽なのにと、何度も離婚をすすめたけれど、母は苦笑いしてこう答えるのだ。
『ろくでもない人だけど……、ほっとけないのよね。』
そんなものなのだろうか?
……あたしにはわからない。
合理的じゃないと思う。
結局父は交通事故で呆気なく死に、結果、これがよかったのかどうかわからないが、今後、借金が増え続けていくことはないだろう。
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