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……まあ、その交通事故もパチンコの帰りというある意味父らしいシチュエーションだったのではないだろうか。
実際のところ、我が家にどれぐらいの額の借金があるのだろう?
母が色々な所へ相談していたみたいだけれど、詳しくは話してくれないのでわからない。
もうあたしも二十五歳。
それなりに母の助けになりたいと思うし、そうなれる歳になったと思う。
でも、そうさせてもらえないのは、もしかしたら負担にならないように…、母なりの優しさなのかな……と、思うようにしている。
漫画やドラマのように職場や自宅に厳つい借金取りが来たり、嫌がらせの電話がかかってくるなんてこと、今まで経験ないけれど……
父もいなくなってしまったことだし、また折を見て借金については母と話をしてみよう。
その後も母と、ぽつりぽつりと話をしつつ、父の骨を骨壷におさめ、そこから後も流れ作業のように待合室へ案内され、出口へ案内され……。
夕方には自宅……街から少し離れた住宅街の一角にある古いボロボロの一軒家で母と二人、喪服のまま温かいお茶をひとまず口にしていた。
ついこないだ暦の上では立春……春になったのだが、まだ二月ということで、体感的にはまだまだ春とは程遠い。
温かいお茶が身体にじんわり染み渡る。
そして、ちゃぶ台の上には、とりあえず置いた父の骨壷。
「……片付けしなくちゃね…。父さんのもの……」
どこか他人事のようにそれを眺めながら、母が力なくつぶやいた。
「今日はゆっくり休んで、明日から片付けたらいいじゃない。あたしも手伝うから。一週間休みくれてるから。」
「絵里ちゃん、ありがとうね。そうしようかしら。」
イマイチ覇気のない笑みを浮かべる母を前に、今日はあたしが食事を作り、母にゆっくりしてもらおうと立ち上がった時だった。
ピンポンと今の我が家には似つかわしくない明るいチャイムの音が響く。
……誰?
「お母さん、あたしが出るから座ってて。」
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