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母の返事も聞かず、あたしは玄関へ。
昔ながらのすりガラスの引き戸の玄関。
すりガラス越しにみえる背の高い人影と、その人影よりは少し低いが、それでも十分背が高い部類に入るもう一つの人影。
男の人?
シルエットから男の人っぽい感じがする。
あたしは開閉するのに少しコツのいる引き戸をガラガラと開いた。
そこにいたのは、黒いスーツを着こなし、第一ボタンを留めていないクールビズスタイルの男の人と、グレーのスーツにヒョウ柄のネクタイをした男の人。
グレーのスーツの人は、坊主頭に黒いサングラスをかけ、顔ははっきりわからないが、肌の感じから二十代ぐらいかなと思う。
黒いスーツの人は、真っ黒な髪をオールバックにしており、眼光鋭いつり目のためか、怖い印象を受ける。
しかし、その鋭い眼光を差し引いたとしても、すごく整った顔の造形をしており、美形と言って差し支えないだろう。
……そして、その二人共、お世辞にも一般人とは言い難い雰囲気。
「富永武志さんのお宅はこちらでしょうか?」
黒い美形な方が、静かに口を開いた。
富永武志……
今日骨となった父の名前だ。
父の知り合い?
あたしは身を固くしながら「そうですが……」と、黒い人を見上げながら小さく答える。
「ご在宅でしょうか?」
「………」
素直に死にましたと言うべきか……。
全身で警戒していると、あたしの背後から規則正しい足音。
この家にいるのは母だけ。
振り返ると、やはり玄関先までやってきた母だった。
「……糸巻さん、来ると思っていました。…こんなに早いとは思いませんでしたが…。」
知り合い…?
「返済方法の相談をしたいと連絡があれば、訪問させていただくのが筋というものでしょう。」
にこやかに黒い人は笑みを浮かべるが、やはり目は笑っていないので、怖い印象を受けてしまう。
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