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「ここで立ち話もあれですし、近くの喫茶店にでも行きますか?」
黒スーツの提案に、母はゆっくりと首を左右に振った。
「どうぞ中に入ってください。……入っていただければ、連絡した理由がわかると思いますから。」
緩い作り笑いを浮かべつつ、母はスーツの人達を家の中へ招き入れ、「茶の間にお茶、持ってきてくれる?」と小さくあたしへささやいた。
母が招き入れるなら、どんな素性の人達がわからないけど、家の中に入れることを拒否する権限はあたしにはない。
あたしはスーツの人達が家の中に入ったのを確認して、ガタガタと玄関を閉めた。
そのまま台所へ向かい客人用の湯呑みを戸棚から取り出して、お茶の用意をはじめる。
温かいお茶の入った湯呑みと急須をお盆にのせ、さっきまであたしと母がお茶をすすっていた部屋へ。
「………そうですか。交通事故で…。」
部屋へそっと入ると、黒い人のつぶやきが耳に入った。
母はそのつぶやきに同調するわけでもなく、特に感情を込めるわけでもなく、淡々と口を開く。
「これから手続きをはじめますが、あの人の生命保険の保険金が後日入ると思います。予定では一千万。すべて借金の返済にあてるつもりですが、残高はざっとどれくらいになりますか?」
………はい?
一千万を返済に充てて、まだ借金残るの…?
「そうですね…。本当にざっと計算して、あと一千万とちょっとというところですか。」
「……はぁ…。なかなか減らないものですね。」
えっ?
と、いうことは、返す予定の一千万と残る予定の一千万とちょっとを合わせたら、計二千万とちょっと……。
あの父はそんな莫大な借金作りながらギャンブルしてたの…?
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