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『これは始まりで非ず』
遠い、昔のことである。
まだ春風が吹くまえの石畳。肌寒い教会の朝。冬の間に土を入れ替えた花壇から、ようやく最初の蕾が芽吹きはじめた、そんな日。
穏やかな陽のもとで微笑みが開いた。その時だけはなぜだか本当に一瞬、春がきたような感覚がして。フライングぎみに独り占めした瞳が大きく揺れる。
「――――」
名前を呼ばれた気がした。もう思い出すことはない、第二の名。ゆったりとこの身を揺らす横風に寝間着の裾が強くなびく。
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