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「――よう、廻」
「――!!」
大通りから外れた裏ストリート。走るメグルの背に声をかけるスタイリッシュな中年男性がいた。同じ事務所に所属し、この地域を管轄するリーダー的役目の男だ。
「いたのかよ」
足を止めたメグルが鬱陶し気に吐き捨てて振り返った。
「いたら悪いかよ。ところで今回はどうだった?」
「……ああ、よかったよ」
「珍しいな。お前がそう言うなんて」
男はニヤリと笑う。
「そう? 芹澤さんが何であんな男が好きだったのか、正直謎だけどな。見た目は合格だけど」
「もしかして、顔がタイプだったからキスしたのか?」
どうやら目撃されていたらしい。
「……かもね」
しかしメグルは慌てない。フッと笑って指先を唇に添えた。口付けの感触が残っていた。泣きじゃくる叶を黙らせようとして、ついやってしまったのだ。そう、メグルの恋愛対象は同性だ。
(……写真以上だったな、叶さん)
実物の彼は瞳を奪うほどの美丈夫だった。ただ、そんな見た目とは裏腹に、意外に泣き虫という点がマイナスだ。
「だったら、一回ぐらいケツ提供してやれよ」
男が揶揄う。
「……バカじゃねーの?」
下世話だと、メグルは呆れ口調で返した。近い将来、叶との再会が待っているとは知らずに――。
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