君が見せる刹那

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「……はじめまして」  男はそう返した後、面倒そうな態度で前の席に腰掛けた。  なかなか失礼だ。叶の中で不愉快度が上がるが……。 「そうだ、何か飲みます?」  それを無視して尋ねた。 「じゃあ、カフェオレのホット。ミルク多めで」  頷いた叶はブラックのホットと一緒にカフェオレを店員に注文した。 「それで、メグルさん……だったかな。送ってきたメールの意味を聞かせてほしい。どうして君が『彼』を知ってる? 俺の連絡先は誰から聞いた?」  程なくして運ばれてきたコーヒーを一口飲んだあと質問を投げた。  このメグルという名の男とは初対面だ。しかし突然彼は叶にメールを入れてきたのだ。『芹澤望(せりざわのぞむ)さんのことで話がある』と――。  芹澤望とは大学時代、叶が恋心を抱いていた男の名前だ。  細身で色白の彼は中性的な容姿をしていた。色素が薄い髪色も魅力的だった。パッチリと澄んだ瞳は、まるで水晶のような輝きだった。綺麗で儚げな男だったと、叶は思い出に浸る。  芹澤との出会いは大学入学と共に入部した写真サークルだった。部員数は少なく、その年の新入部員は叶と芹澤の二人だけだった。  何故、叶が写真サークルに入ったのかというと、下町で写真屋を経営していた今は亡き祖父の影響が大きかった。  チェーン店のフォトスタジオが台頭する中、祖父は昔ながらの自宅兼写真屋を営んでおり、孫である叶に色々なカメラを触らせてくれた。  叶自身も自然と写真に興味を持ち始め、小学生の頃はゲームで遊ぶよりもカメラを手に外へと飛び出していた。  一方芹澤は、町工場を経営する両親の一人息子だった。写真は趣味で、将来は親の跡を継がず、映像関係の仕事に携わりたいと言っていた。  二人の仲が深まるまで時間はかからなかった。語り合っていくうちに叶は芹澤に惹かれていった。    自分は同性愛者ではない。  そう言い聞かせても恋心は募るばかりだった。何よりも彼の撮る写真が好きだった。綺麗な心と曇りない(レンズ)で捉える彼の世界は感動を覚えるほど美しかった。そんな彼を撮るのも好きだった。
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